第27回モリサワ文字文化フォーラム
[個と群と律]組市松紋の仕組み

野老 朝雄

美術家

1969年東京生まれ。幼少時より建築を学び、江頭慎に師事。2001年9月11日より「繋げる事」をテーマに紋様の制作を始め、美術、建築、デザインの境界領域で活動を続ける。単純な幾何学原理に基づいて定規やコンパスで再現可能な紋と紋様の制作や、同様の原理を応用した立体物の設計 / 制作も行なっている。 主な作品に、大名古屋ビルヂング下層部ファサードガラスパターン、東京2020オリンピック・パラリンピックエンブレム、大手町パークビルディングのための屋外彫刻作品などがある。

「2019年6月28日、株式会社モリサワは、東京2020公認プログラムとして第27回モリサワ文字文化フォーラム 「[個と群と律]組市松紋の仕組み」を開催した。本フォーラムの講演者は東京2020エンブレム制作者である美術家・野老朝雄氏。200名を超える満席の中、エンブレムにデザインされている「組市松紋」を紐解きながら、野老氏の制作の核となる「律」そして「個と群」という概念についてお話しいただいた。

同じ要素で組み上がる3つのエンブレム

「東京2020エンブレム」は実際に木材をはめ込むことによって制作されており、3種類の四角形45個(大9、中18、小18)と中心の15個をもって構成されている。これらを用いて“輪”を作ったのがオリンピックエンブレム、両手を挙げたガッツポーズのようにも見えるのがパラリンピックエンブレム。両者ともパーツ数は全く同じであり、各パーツを組み替えていけばそれぞれのエンブレムに作り変えられる。つまりこれら二つのデザインは、物理的に同じ重さでできているということになる。また、各エンブレムを作るパーツの組み合わせ方も1通りではなく、オリンピックエンブレムは53万9968通り、パラリンピックエンブレムは335万7270通りになるという結果が数学者によって立証されている。「多様性」「平等、イコール」など大会の精神にも通じるこれらのデザインを隣同士に並べ、「2つの“円相”を作りたかった」と野老氏は語った。また、東京2020日本フェスティバルのエンブレムも同構成・同質量となっており、これは三つの羽でできたプロペラのようなデザインになっている。

同じ要素で組み上がる3つのエンブレムは、ある程度の算数の知識があればコンパスと三角定規だけで誰でも作図することができるとのこと。これは野老氏の他の制作にもあらわれる、「誰でも繋がることができる」という考え方に通じている。

律=ものを成り立たせるための仕組み

四角形一つ一つのパーツ(個)を集合させ(群)、それをどういう規則で当てはめていくかが制作上の「ルール=律」となる。ルールとは縛り、不自由なものと捉えられがちだが、サッカーやラグビーなどの身体的ルールは試合の展開を面白くさせ、俳句の5・7・5という字数制限はより豊かな表現を生む。この規則的なデザインには、不自由の中で生まれる美を表現するという想いで「律」の要素がふんだんに込められているのだ。

採用された「藍色」は日本の伝統色だ。色褪せしづらく防虫作用もあるとして古くから日本人に親しまれてきたこの色を、野老氏は「黒を除いた時に強い色」と語る。さらに言えばこのデザインの藍色は、CMYK(印刷インキ色のCMYK配分率の配分)では「C=100、K=50、M=86」と厳密に決められており、この数字はエンブレムの構成パーツ大・中・小の1:2:√3というスケール感と同じ比率になっている。色においても摂理を持たせ、ルールを定めたかったのだそうだ。

建築から学んだ、
繋がることの素晴らしさ

講演後半は聴講者との質疑応答と、過去の展覧会やその他の作品について語られた。自身のルーツである建築というジャンルとの関わり方について問われると、制作においての考え方は建築から学んだと語った。建築士が設計したものを大工が作るといった関係のように、一つのものを介して多くの人が共同するという連鎖を、野老氏は現在の制作でも大切に心に据えている。

「律」があることであらゆるものが関連づけられ繋がりを帯びていく。伝統文化への賞賛と人々がつながり合う素晴らしさを引き出した組市松紋は、まさに東京2020大会にふさわしい。