モリサワ文字文化フォーラム

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2012年2月1日、株式会社モリサワは、第6回モリサワ文字文化フォーラム「表現と伝達」を開催いたしました。
モリサワ本社4F大ホールにて募集定員を超える180余名が参加。講師には、日本の伝統的な書という表現手段を用いて文字に表情・感情をつけ、意志を吹き込む書家の紫舟(ししゅう)氏と、溢れる情報を整理しデザインに落とし込む、常に第一線で活躍し続けるデザイナーの奥村昭夫氏のお二人を迎え、「表現と伝達」というテーマのもと、語り合っていただきました。

フォーラムレポート

第6回 - 表現と伝達

6歳より書を始め、NHK大河ドラマ「龍馬伝」題字、ハリウッド映画「エアベンダー」等に作品を提供。書の文化活動「Love Letter Project」、震災復興支援「日本一心プロジェクト」の主宰でもある紫舟氏は、「パリコレ」への展示や「ヴェネチア・ビエンナーレ2011企画展」など、海外でも幅広く活動している。一方、奥村氏は現在京都大学客員教授でもあり、江崎グリコ・月桂冠・牛乳石鹸、ハウス食品などのパッケージデザインをはじめ、ロゴマークなど数多くのデザインワークを手がけ、長年のキャリアと実績を誇る。世代はもちろん、創作プロセス〈伝達〉から最終的なアウトプット〈表現〉に至るまで大きく異なるお二人。スクリーンにはお二人の写真とマークが映し出され、「書家・紫舟」×「デザイナー・奥村昭夫」・・・会うのは三度目というお二人の対談は、奥村氏のやわらかい関西弁のリードで始まった。

「創造びと」と「頭でっかちのあきおくん」

紫舟 氏

紫舟氏のマークは書道家になった時から名刺の裏につけているもの。漢字「創」の「リ」を「人」にして、タイトルは「創造びと」。いつの時代も困難や問題が山積しているが、時代やものを創り出すクリエイティブな人たちがいるからこそ問題を解決して次の時代へ手渡せてきたのではないか。自身もものごとを創造する人になりたいと思い、この作品を常に名刺、パンフレットにつけて使っているのだと言う。「マークでもそない考えてるのはすごい。ぼくのマークは頭でっかちのあきおくん。それだけ。なんも考えてない。この差みたいなものが出てきたら面白いと思う」と、奥村氏。スクリーンにはお二人の作品をひとつずつ対比表示。「書」×「デザイン」というスタイルで対談は進んだ。

「文字は情報。書という表現手段でメッセージを込めたい」

奥村昭夫 氏

紫舟さんにとって「書とは?」と奥村氏。文字は情報。その情報に書という表現手段を用いて表情とか感情とか伝えたい意志が込められるのではないかと思っている。今後やりたいこと、これまでもやろうと努力してきたことは、文字に表情や感情をつけて伝えたいことに最も適した書体で、タッチで、線で、応えていくということだと紫舟氏は答える。例えば漢字の同じ一文字でも色々な意味があって、線をせつなく書いたり、激しく書いたり、何かに見立てて書くことで伝えたいメッセージを込められるのではないかと考えていると続けた。紫舟氏の最初の作品は「龍」。書家になってまだ間もない頃の作品で、大きく伸びる為には一回縮む。できるだけ小さくなってそれから大きく飛躍するというのを書で表したいと思い、体の内側にエネルギーを溜め、体をぐっと曲げているようなこの龍は若い龍をイメージしていると解説。対する奥村氏はプライベートなもので2012年の年賀状。「文字って面白いとか、見た人が感じたままでいいなぁというちょっと無責任な感じでもあるけど自分の年賀状なのでそれでいいかな」と説明した。

「物事の本質をちゃんと見極められる“テキトー”」×「おもしろい、あたらしい、ただしい」

作品の紹介が続き、奥村氏から「愛とは?」「アートとは?」と紫舟氏へ。よく芸術文化センターというのを見かけるけれど芸術と文化を並列で使っていることに違和感を覚える。文化の先は技術。人でいうと文化を担っているのは職人さんで、芸術はアーティスト。どうやってものごとを生み出すのかというと、職人さんは日常の生活がもうちょっと快適だったりするように、ちょっと絵を入れたり取っ手をつけたり、納期までにアイデアと工夫でのりきる。芸術家は自分の内側から苦しみながら生み出すと語った。「座右の銘」は“テキトー”。物事の本質をちゃんと見極められるような最も適当な状態、そういう目を持てるようにというのと、考えすぎるところがあるのでカタカナでちょっと気楽な感じにということだ。次に奥村氏が軽やかに答える。「愛とは、あいうえおの最初の二文字」、「アートとは無駄」。芸術は少し役に立つとか何かを改良するとかいう世界ではなく、全く無駄なとこにポン!とある世界。何か別のすごい力になると話し、「座右の銘」は“おもしろい あたらしい ただしい”と答えた。相手に情報を与えて刺激がある=おもしろい、僕が考え出したアイデアでありたい=あたらしい、そして最もデザインに重要なのが、情報として正しい情報が伝わっているかという検証=ただしい。いつもこの3つを念頭において仕事をしていると語った。

「書いて、書いて、自分の中に入れる」×「答えを出す、数学」

常に作品を創っているという紫舟氏。納得できるまで数百枚、山ほど書いていると言う。イベント等についてはライブパフォーマンスや、その場でのコラボというような即興で生み出されるというのもカッコイイが、なかなかクオリティを上げることができないので周到に準備してどうやればたくさんの人が感動してくれるだろうかと、リハーサル、実験、練習などしてから行くという紫舟氏に対し、デザインは話している間にできるという奥村氏。発想はどういう風に構築して形になっていくのかと聞かれ「数学だと思っている。話しているのが設問で、その答えを出していく。答えが出たら定着させる」と答えた。作品の紹介が続き、紫舟氏の書の文化活動「Love Letter Project」、震災復興支援「日本一心プロジェクト」について、そして話題は「国際性」へ。この1月にはスイス・ダボス会議に渡辺謙さんとゲストとして出席し、Japanのロゴと映像の作品展示、パフォーマンスを披露してきた紫舟氏。伝統的な書と世界に勝てる最先端のテクノロジーとがコラボした作品を創り、日本の技術、文化をメッセージしている。

「こころ、たくす。 ことば、しるす。」

海外では紙に書いただけでは文化の域を超えず、映像にすると伝わりやすいと紫舟氏。その映像作品「cool Japan」他、自分で溶接もしたという立体としての書のオブジェ「寂」なども紹介。言葉を選び、丁寧に想いを伝えようとする紫舟氏と端的に答えを出していく奥村氏。対比という形で異なる二人を表現してきた対談はたくさんの答えをもらえるものであり、挑戦を続ける紫舟氏の静かな熱い想いを知るものともなりました。最後に、奥村氏が紫舟氏へのメッセージを創ったと「こころ、たくす。 ことば、しるす。」という作品がスクリーンに映し出され、「モリサワのフォントが370位重ねてある。そういう風に重ねた気持ちみたいなもので、次の紫舟さんがもっと活躍したら、というメッセージです。プレゼントします。」と締めくくられた。拍手の中、紫舟氏が「ありがとうございます」と頭を下げられた後、言葉を噛みしめ、自分の内へ込めていくように「こころ、たくす。 ことば、しるす。」とつぶやかれていたのも印象的でした。