モリサワ文字文化フォーラム

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フォーラムレポート

第16回 - 文字とデザイン Vol.6

株式会社モリサワは、第16回モリサワ文字文化フォーラム「文字とデザイン Vol.6」を2016年1月22日(金)に開催いたしました。

毎回幅広い層にご参加いただいている「文字とデザイン」のシリーズもついに6回目。今回は「デザインが果たすこれからの役割」をテーマに、K2の長友啓典氏、黒田征太郎氏、大日本タイポ組合の秀親氏、塚田哲也氏、また司会には、デザイン団トンネルの鈴木信輔氏と樋口寛人氏を迎え、3つのセッションで構成する約3時間半のフォーラムとなった。モリサワ本社4F大ホールには約180名が、東京本社会場には約50名が参加し、東京サテライト会場への同時中継も行いました。

SESSION.01  「文字が創り出すデザインの力 ─大日本タイポ組合の作品を振り返る─」

大日本タイポ組合(司会進行:デザイン団トンネル)

秀親 氏(大日本タイポ組合)

大日本タイポ組合の秀親氏、塚田哲也氏は青のトレーナーに青のキャップという揃いの衣装で登壇。昨年末、ギンザ・グラフィック・ギャラリーにて開催された「字字字 大日本タイポ組合」展での、その圧倒的な文字と字への愛情と執念についての紹介から、フォーラムの幕が開く。

スクリーンに映し出された「字字字」展のポスター。「ggg(ジージージー)でやるなら字字字(じぃじぃじぃ)しかないだろうとね、と」。スクリーンに展覧会の印刷物、会場の様子を映し、“字”という字をいたるところに使い、会場に入ったとたん「わぁ!字じゃん!」と言って欲しい、そういう展覧会にしたと、塚田氏。この展覧会の時は字のことばかり考え、どうすれば字を違う表現で見せることができるのかという追求を続けていたと振り返る。子どもに「ウかんむり」をかぶせたら“字”という字になるんじゃないか、というので実際の「ウかんむり」をかぶった子どもが三人並ぶ。そのような、「字字字」を表現した写真がスクリーンに映し出された。

鈴木氏からの「色々な“字”を展開しているが、無限にいけるものなのか?限界はないのか?」という質問には、「現時点における限界まではいきましたね。展示全体をタイポグラフィで表現したい。漢字の“字”、ひらがなの“じ”、カタカナの“ジ”、アルファベットの“g”、“G”。無限ではないけれど、今まで作ったものを再度展示するのではなく、字に絡んでいれば、もう一回リメイクして展示しました」と秀親氏。「お題を解釈し、どう崩してデザインしていくかということを考え、文字の形で解決していこうとする。今回は、文字の“字”がテーマ。“字”という形そのものを字の形で解決するという自己言及的な、ややこしいことをやっている」と塚田氏は語った。

 

塚田哲也 氏(大日本タイポ組合)

「コンビ名は、世の中にありそうな、なさそうな名前ですが、それはどういう意図で?」という質問には、「東京TDCに応募する際に、東京より日本の方が大きいじゃん?もうちょっと大きくして大日本にしてみようかとか、おかげで大日本印刷の持っているギャラリーでお仕事ができるようになったわけですね」と秀親氏。そもそも、自分たちの“字字字ギャラリー”を作りたいという構想が3年くらい前にはあったという二人にとっては、今回の展覧会は、願ったり叶ったりだったのだと話す。その名前から、何でもかんでも文字縛りでやらなくてはいけないということで今までなんとかやってきたが、今では、浅葉さんをはじめ大先輩から「お〜い!タイポ」と呼ばれると話す秀親氏に、「縛りができたことで深くなっていくというか、大きなプラスとなったわけですね」と、鈴木氏。

 

秀親氏と塚田氏は、解説を続けながら「なんでも“字”にしちゃおうというのは、今回初めての発想。美しい文字ではなく形のおもしろさを探る。なっちゃった形を楽しみ、理由のあることで変形しているのはおもしろい」と言う。鈴木氏が「表面上見た以上に、何か意味を隠しているという印象なのですよね」と感想を述べたのに対し、秀親氏は「理想としているのは、一個の言葉の中で表現できる意味合いが一個ではなく、いわゆるダジャレ的な、こういうふうにもとれる、こういうふうにもとれるというような文字が作れるといいなと思う。一瞬では理解できにくいものを作っていますね」と語った。
10年前より5年前、5年前より今、ずっとトレーニングを続け、鍛えてきている感じだという二人は創作課程での苦労話、何をやる時もルールを決めていて、その法則は破らないように作っていると明かし、最後に、『あなただけの字をつくってください』という、字を使って字をつくるwebアプリ“type setter”をiPadでデモ。「なんと、今この瞬間から皆さまも使えるようになります。“one more thing”です。“powered by TypeSquare”です」と来場者へのプレゼントをし、このセッションを終えた。

SESSION.02 「グラフィックが創り出すデザインの力 ─K2の作品を振り返る─」

K2(司会進行:デザイン団トンネル)

長友啓典 氏(K2)

早川良雄先生の事務所で最初に声をかけてくれたのが黒田氏で、それからもう60年が経つと長友氏。スクリーンには椿組のポスターが映し出された。黒田氏からこのポスターを作るきっかけとなった戸波山氏との出会いのシーンと、「こんな話あるねんけど、やらへんか?」と長友氏に話したその瞬間から、イラストレーター黒田征太郎、アートディレクション長友啓介という形が決まったと語られた。
長友氏は「朝昼晩、同じ飯を食ってると、思ってることも、なんとなく同じになってくる。こんな仕事が来てん。こんなことやろうか?って言うだけで、いや、言葉にしなくても黒田から絵が出てくる。おぉ、これ、俺が思ってた絵やなあという感じでね」と二人の絶妙な関係性を語った。二人には多くの言葉は必要なく、歩きながらの会話も看板を見て、「俺は仁丹やねん」「俺は味の素やな」それだけで通じる。黒田氏は「電脳機器を否定するものではありませんが、今でもそんな風にやった方がいいと思う。肉声でしゃべり合う。身体で伝え合う。身体能力というのが大事だと思う」と話す。アメリカに憧れ、グラフィックデザインに憧れ、わかりやすく言えばソール・スタインバーグに憧れ、無理矢理に早川先生の門を叩いた。そこで早川先生や長友氏の絵の才能を目の当たりにし、自分には無理だと思った。描いた絵が恥ずかしくて捨てていたが、ゴミ箱に捨てた絵を、ある時、長友氏が拾いあげ、それをB全のポスターにした。そこから黒田氏のイラストレーターの道が始まったのだそうだ。

黒田征太郎 氏(K2)

「黒田は違う星から来たんやないかと思うくらい。こんな人がいるんやと驚いた。アカデミックな教育を受けていない、こんなに感覚的な鋭い人。そういう人やから、今も続いている。本当に子どもみたいな好奇心の塊。とにかく身体でやる。そういうところがおもしろい」と長友氏は話す。鈴木氏が、K2のポスターに対し、「どっちかというと情緒的。感覚に近い、気持ちがそのままポスターになっているという感じがする」と話すと、「気持ちというのは非常に大事。俺は俺。何物でもない黒田征太郎、俺で行きたい」と黒田氏。そして、「油断するとソール・スタインバーグになったり、早川先生になったりしかねないところがあってね。それはそれでいいと思います。オリジナリティなんてないと思うからね。全部何かのまねですよ。でも、やっぱりしかし、自分でありたい。そういう揺らいでいるところが面白い。その気分をポスターというサイズの上に長友が受け止めてくれた。そういうコンビです」とK2を語った。
長友氏は、田中一光先生、早川良雄先生から学んだことなどを交えながら、「それが修行。そういうことの積み重ねが大切で、自分の身体を使って修行をしなければ、奇跡は起こらない」と話す。オリンピックのエンブレム問題にも触れ、黒田氏は「好きなこと言えばいいじゃないと思い続けて僕は77年生きてきた。言いたいこといおうぜ!みんな奇跡の子として生まれて来ているんだから率直に生きよう」と語った。

「へんな奴やなあと思いながらずっと一緒にやってきてくれてるのが長友。K2という航空母艦があるからできること」と黒田氏。お互いを補い合うのではなく、お互いやりたいことをやり、認め合い、尊敬し合い、受け止め合う。「コンビやからできることやね」と長友氏。そして「僕らは朝日と夕日の違いとか自分の中ではわかる。身体に刷りこまれているけど、今の人たちは、ぽんっと選んだだけで理解できているのかな。コンピュータ時代になって、実は自分自身の表現の幅が狭まってしまっているんじゃないかと、心配だったりもする」と話した。
黒田氏は、「文字ってすごくチャーミングなもので、まだまだ変わっていくものだと思う。そういう気配みたいなものを大切にしながら電脳機器を使っていくなら、もっと飛躍できそうな気はする。僕は悪戦苦闘したい。モリサワさんの文字とライブで何かできないかなぁ。白い画面に文字を写してくれて、そこに俺が、見た瞬間、文字の意味と文字の形態に反応して色をつけるとか。ねぇ、やらない?一緒に」と呼びかけ、4月にオープンするBigStepの『描き場』というオープンスペースを3年間やる決心をしたと話し、「言うだけのジジイで終わりたくない。やりましょうよ、一緒に。みんなでやったら面白いよ!」と再度呼びかけた。

SESSION.03 「ユニットだから実現できたこと、実現できること ─デザインが果たすこれからの役割─」

K2 × 大日本タイポ組合(司会進行:デザイン団トンネル)

鈴木信輔 氏(デザイン団トンネル)

ステージには3組のユニット。文字の未来をテーマにセッションが始まった。
塚田氏は「象形文字から字の形がデザインされてきて、文字の形が決まっているけど、それが完成形なのかという疑問がある。今ある文字だけじゃ足りないと思っているし、“あ”と“い”間の文字があってもいいんじゃないかと思っている」と語ると、黒田氏が「おもしろいね」と興味を示す。秀親氏も「アルファベットには大文字と小文字があって、なんで中文字がないんだろう?じゃ、作っちゃえばいいじゃん。と作ろうとして頓挫したことがある」と語り、「その作ろうとする気持ちって、僕すごく好き」と黒田氏。今の時代に合った横書き用の仮名を開発したことがあるという塚田氏に、「文字なんか、無くしてしまったら良いとい思うこともあった。最たるものが数字」と黒田氏。そこで、大日本タイポ組合も10年前に作った作品「文字のない世界」を紹介した。

樋口寛人 氏(デザイン団トンネル)

「ひとつの文字にどれだけ感情を込められるのか、やっぱり感情が大切で、だからハガキの宛名面の文字も最後まで自分で描かないと気が済まない」という黒田氏に続き、長友氏は、「作家によって文体が違うように、作家の文体に合った文字が出てきたらおもしろいと思う。組版になった時に、読後感まで表現できるようなものすごくチャーミングな組版ね。何事もチャーミングでカッコ良くないといけない」と話す。
「長友さんがおっしゃった作家の組版というお話。手書き原稿って百人百様。フォントは一人に最低一書体あっていいんじゃないかと。だからもう限りないなと思って。」と塚田氏。長友氏は、「そうだね。たとえば男女の会話だけでも違う。色々考えていくと、できないことはないと思う」と語る。

黒田氏は、「長い時間かけてできてきた文字というのを尊敬しながら、そこにまだ入れてもらえる力があるなら、いい意味でコラボレーションできると思う。コンピュータがあって、人もいて、ものすごくタイトな時代になって行くと思うし、デザインも変動せざるを得ない。簡略化していく方向なのか、豊満になっていくのか、そぎ落とされていくのか。エネルギーのことを考えるとそぎ落とされる方がいいのかなと思う。一文字が簡略化されていたらデータにするときのエネルギーはその分抑えられるからね。」と話し、塚田氏は「今、文字はいっぱい作っていけると話した矢先に、なんか、デザインが寂しくなってきた時代だなぁと、ふと思ったり」と。「でもそれは、おもしろいものをつくるチャンスだと捉えるしかないね」と黒田氏が答える。
「そうですね。アンモナイトという六文字を表す一文字を作ったら省エネじゃないですか」と語る塚田氏に「そうです。僕が今しゃべろうと思ったことを簡単にしゃべってくれちゃうね。そう、省エネですよ。文字は世につれという言葉があるとしたら、時代の逆風だったり、逆風とちゃんと一緒に吹いてみようという柔軟さが大事な時代になっていく気がする。だからと言って、合理性だけで転がっていっても味も素っ気もない」と黒田氏。

様々な話を織り交ぜながらも、未来の話として、長友氏が「子どもたちから見ておもしろい、かっこいいと思えるもの、それを子どもたちに刷りこんでいかなければならないと思う。昔の先生方は誇りをもってやっていた。次世代の人たちにもそういう気持ちでやってもらいたい。もっと強く、誇りをもって、自信を持って、もっと大きな声で言えるようになったらと思う」と語り、秀親氏は小学生が書いた夢という字でその子たちの夢を書いたという例などを話し、「着々と刷り込みをやってます。良かったものは受け継いでいかせた方が良いし、テクノロジーで進んでいく部分は取り入れた方が良いと考えて、若い人たちには接するようにしている」と応えた。
黒田氏と長友氏は、「いいねぇ、やっぱり組合員になる!」と感嘆。さらに黒田氏は、「やらなくちゃいけないことってある。一緒に描くと壁を越えられる。そのツールとして文字があったり、音楽があったり、絵があったりする。エスペラント語をもっと超えていくような世界共通文字みたいなのを作りたいね」と新たな夢を語った。

年代も、キャリアも関係なく、熱い思いで語り合った3組のユニット。笑いを交えながらも、真剣に熱く語る姿に、文字の未来への希望が見える有意義な時間となり、大日本タイポ組合の二人の「俺たちのやってることは間違いじゃないと改めて確認できたと思います」という言葉で、フォーラムの最後が締め括られた。