モリサワ文字文化フォーラム

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フォーラムレポート

第21回 - 言葉と絵で。福部明浩と榎本卓朗の広告のつくり方

2017年7月28日、株式会社モリサワは第21回モリサワ文字文化フォーラム「言葉と絵で。福部明浩と榎本卓朗の広告のつくり方」をモリサワ本社4F大ホールにて開催いたしました。

2016年ADCグランプリ受賞作品の大塚製薬・カロリーメイトの「見せてやれ、底力。」をはじめ、“グルメな卵きよら”のCMなど、数々の人気作品の制作秘話などについて、コピーライター福部明浩氏とアートディレクター榎本卓朗氏が講演。質疑応答を含み約2時間のフォーラムには、約230名のご来場をいただきました。

大きな拍手の中、登壇された福部氏と榎本氏。15年くらいは一緒にやっているというお二人は博報堂出身。当時を振り返り、「プレゼンでは負けてばかりいて…。こうやって、みなさんの前でお話をするのは感慨深いです」と福部氏。

これが二人の作り方『一語一絵』

福部明浩氏

基本的には広告とCM制作に携わり、軸足はCMだというお二人。「CMには電通さんが作ったある種の文化があって、CMプランナーという人たちがいますが、僕たちはCMプランナーではなく、コピーライターとアートディレクター。つまり言葉と絵の二人で創るという珍しいパターンです」と語る福部氏。大きな会社になればなるほど、何時間もの会議で一言も発言せずに終わるようなことがある。それがどうしても嫌で、そこから抜け出そうと二人でやり始めたという。

「今日、9割は福部がしゃべって、僕は横で『うん』と言うだけですと榎本氏。「いつも僕がべらべらとしゃべって、榎本は興味がある時だけ『あぁ、いいんじゃないっすか?』と。僕の一番いいアイデアが出る時は、エノが絵を描いている時なんです』と福部氏。「ちょっと腹が立つんですよね。集中して描いている時に『次、こういうのどう?』とか言ってくるので、ちゃんと絵が描けないんです」と榎本氏に、福部氏は「僕はせっかく面白いことを思いついたのに、聞いてくれないからムカついているんです」。

 

スクリーンには、コピーライターの大先輩だという眞木準氏の『一語一絵』という言葉。「まさに、僕たちがやっていること。作り方というのはこういうことなんです。この一言に集約されている」と福部氏。眞木氏の代表作をいくつか紹介し、初期の名作『トースト娘ができあがる』を例に「まさに一語一絵でできていて、いま見てもいいなぁと思う。僕たちの基本的な広告の作り方。僕が一語を担当し、榎本が一絵を担当、どっちがどっちということでもないんです」と福部氏。「ポジションチェンジみたいなのが面白いとも言えます。大人数だとそれができない」と榎本氏が続け、二人で、逃げられない状況でやろうと決意してから、少しずつ仕事が回り出したと振り返る。「眞木氏の時代はグラフィック主体の、新聞が一番強いメディアだった時代の広告の作り方だからと思われるかもしれないが、デジタルの時代だからこそ、一語一絵の形で、スマホやPCでバイラルされていくのかなと思う」と言う福部氏は、きよらのCMに関するツイートなどを紹介した後、僕たちを世に出してくれた、名刺代わりになる仕事が“カロリーメイト”だと進める。

これが二人の名刺代わり「カロリーメイト」

スクリーンには、カロリーメイトの写真と「受験生の背中を押す存在に。」の言葉。続いて、一語という枠の中に「熱量」× 一絵の枠の中に女性の横顔、その下に「Calorie=熱量」と映し出し、プレゼンテーションのように進めていく。カロリー0、カロリーハーフが売りになる時代、“カロリーの友”という商品が売れるのか。名前を変えたいくらいだが、それが不可能なら「カロリー」という言葉を翻訳、アップデートするしかない。日本語では熱量と訳される。これを「気持ち」「パッション」という意味での熱量に置き換えて、“熱量の友”でいこうと考えた。この作業の前に全く勝てない競合プレゼンが続き、朝方帰る気力もない時に聞いた中島みゆきさんの“ファイト”が異常に染みたという福部氏。あとで振り返れば、受験生と同じくらい疲れている時、追い込まれている時に「この歌、響く」と感じたものはどうやら、受験生にとっても響くようだという。いまの受験生にとっては、1983年と、そうとう昔の曲。映画で注目され始めていた満島ひかりさんの持つ嘘のない感じ、熱い感じがよく、彼女をキャスティング。じゃあ、どこで歌えばいいか。校舎に向かって歌うのが、たぶん一番いいだろうと。「熱量、いいね。“ファイト”、いいね。ときて、エノがこの絵を描いた時に、いけるなと感じた。ほぼほぼこれは完成形」と、スクリーンには絵コンテ、『その熱量に、カロリーメイト』というコピー。これでプレゼンは通ったが、少し弱いと悩み、カロリーメイトから発している言葉に、ドンと背中を押すような、ある種の強さと短さのあるコピー「届け、熱量」に変えた。「いろいろ書いたコピーを見せたら、榎本が『こんなかなら、これじゃないっすか?』って。TCC賞のコピーですよ(笑)『まぁでも、漢字、ひらきますよ』って」と福部氏。「宅配便みたいに見えたんですよ。『届け』が」と榎本氏。「いまはじめて聞いた。確かに、ひらがなにしてもらってよくなったんですよ」と福部氏。「この後恐ろしい事件があって。得意先が『とどけ、情熱量』にしたいと。彼が一番苦労したのは、それを説得すること。情熱量にしていたら賞はとってないですよ」と榎本氏。「そして、いまここにいない(笑)。気持ちはわかるけど、何か大きなことが間違っているという気がして。その時点で見れば正しい議論のような気がするけれど、引いてみたら絶対間違っているという場合、結論は先送りにした方がいい。映像撮って、入れてみて決めましょう。というように、ちょっと力点・視点をずらす作戦をとった方がいい。そういうテクニックは使った方がいい」と福部氏。満島ひかりさんが“ファイト”を歌うCMを流した後、グラフィックとボディーコピーを紹介。受験生バージョンが好評だったので、新社会人バージョンも制作することに。曲は米米CLUB。「当時の会長が石井竜也さんを好きだということから…」と福部氏。「ちょうど福部さんが独立するときで、自分と重ね合わせて一人で泣いてましたよね」と榎本氏。「あぁ…(笑)『トランクひとつで』っていうところとかねぇ、いま見てもいいなぁと思いますけど。広告のおもしろさって、予想外のものが降ってくること。会長が石井竜也さんを好きだというのがなければ、米米CLUBへはいかない。そういうある種のセレンディピティを楽しむ力っていうのもここで学ばせてもらったという感じです」と福部氏。

榎本卓朗氏

そして、次は「黄色いお守り」にしようと。最初の作戦が大切。お守りというのは、頑張った人が「最後の最後に力をもらうべきものだろう」というところから“底力”という一語が生まれた。カロリーメイトは食べたらすぐにパワーアップ!というものではないが、栄養バランスは整っていて、ずっと頑張っていく日々の力、底力を鍛えるようなものだということで、いまもこの言葉は使われている。一語の枠に「底力」× 一絵は黒板アート。このときは再プレゼンだったという裏話も披露し、黒板アートがどれくらい動くのだろうかと手探りだったと、プレゼン時に榎本氏が自分で描いたという黒板アートを提示し、その手法を解説。セリフのない黒板アートに、歌でメッセージを伝えようと、曲は岡村孝子さんの“夢をあきらめないで”にした。美大生と一緒にやるという初めての黒板アートオーディションも実施。コピーは『見せてやれ、底力』。「主人公の受験生に言っていることでもあり、黒板アートを描いてくれた人たちのすごい労力、すごい底力が詰まっている、ダブルミーニングで伝わったのかなと思っています。メイキングが素晴らしいんです。もうひとつの底力篇と呼んでいます。ぜひ見てください」と、映像を流し、榎本氏がADCのグランプリを受賞した作品であること、グラフィック用に描いてもらった黒板アートを新宿に貼り出した時の様子も写真で紹介。

順調にきたシリーズ、グッとくるものに続いて求められたのは、ちゃんと機能を伝えること。「栄養バランスがよい」ということを伝える機能篇を作ることに。一語は「小さな栄養士」× 一絵は、箱からちょこっと顔をだしているように見えるカロリーメイト。「だいぶ疲れていたんでしょうね。これが顔に見えたんですよ」と榎本氏。CMを流し「この人が自己紹介するだけで、チャーミングでいいんじゃないかと考えた。でも、かわいいというだけで終わらせたくなくて。最後に折られるという、ちょっと災難に遭う感じがいいなと」と福部氏が解説。フルーツ味、さらにネット上で大人気になったというチョコレート味のCMを流し、大人気の理由が声優の中村悠一さんで、世の中のバズり方がすごかったと話す。これらが上手くいったので、カロリーメイトゼリーでもやろうということになった。声優の大塚明夫さんバージョン、夏の稲川淳二さんバージョン、中村さんと磁石コンビと言われるくらい仲がいいという声優杉田智和さんをプラスしたバージョンと次々にCMを紹介。「企画者の満足と世の中のバズり方はちょっと違うんだなというのは、やっててわかりますね」と話す。

これが二人の原点「ビタミン炭酸 MATCH」、そしていま

後半は“ブランド卵 きよら”の事例から。ブランド卵として、値引きではなくCMを打って認知してもらい、適正な価格で販売したいというのが“きよら”。一語は「きよらのお布団をかけてください。」× 一絵は、きよらのお布団をかけられたケチャップライスのネコ。絵コンテを見せ、CMを流す。5歳の新津ちせちゃんの声がとてもカワイイ。「この声があったからこそ成り立っている。NG集が面白いので見てください」と、実際のNGシーンにちせちゃんがアテレコしたNG集が流された。福部氏は「映画“トイ・ストーリー2”で、CGのアニメ映画だからNGなんかあるわけないのに、エンディングにNG集が入っていて、わざわざ作っているっていうのがとても素敵で。あれが生涯一番やりたい遊び心だなと思っていて」と話す。このCMは東京で大人気だったそうだが、大阪ではそうでもなく、大阪での人気が一つの課題になったことから、テコ入れすることになり、東と西でCMを分けた。まずは東バージョンのCM。会場には笑いが起こり、お二人は声を揃えて「ウケた!?」と嬉しそう。「関西は関西っぽくしなくてはというので、この方の力を借りた」と、吉本新喜劇の“すち子”の写真を見せ、西バージョンの「すち子ママ篇」を流した。これで関西の売上も増加し、売上的にいうと一番成功しているCMとも言えるそうだ。

「カロリーメイトが僕たちの出世作と言いましたが、僕たちの一番の原点、一番長く続けさせてもらっているブランドが“ビタミン炭酸MATCH”です」と福部氏。スタートは売上が増えなければこの商品をやめるというくらい追い込まれていた時期だった。炭酸飲料では100年続く巨大ブランドもあるため、その中で一番になるのは難しい。高校生だけで一番になろうという作戦。9年前「『大人が飲んだら、タイーホする』で作ってください」といわれ衝撃的だったという、2ちゃん用語が使われた打ち合わせの内容を紹介。それを普通の言葉に直し、一語は「大人が飲んだらタイホだぞ」× 一絵は、当時大人気だった南明奈さん。そのCMを流し、次にピーコさんがタイホされるバージョン。「本当は逮捕されていません。」という旨の注釈をつけてくれと言われ、ギャグCMにただ注釈をつけるのは嫌だったと、「ピーコは実際にはタイホされていません。(おすぎ)」と入れ、おすぎさんへのギャラが発生した裏話も披露。

次の展開は、実際に飲んでいるのは部活帰りの高校生ということから、運動部だけでなく文化部にも、というもの。そこで考えたのが「運動部×文化部 = 走れメロス。」プレゼンには往々にして屁理屈が効く。一語は「走れ!ビタミン炭酸」× 一絵はメロスの姿をしたNEWSの手越祐也さん。「ある種、CMにおける何かをつかんだ。これが僕らのターニングポイント。ぐんとクオリティが上がっていて成長したなと」と福部氏が続け、このシリーズからストーリー性が増し、CMには監督という存在が重要なこと、監督とどうやって一緒に作るかを学んだと、メロスバージョンのCMを紹介。このCMは大人気で売上も増加し、架空のお話はやりきったという達成感もあったので、次はリアルな高校生を描こうと思ったと、リアルバージョンのCMを流した。これは9年間担当して、唯一売上が落ちた作品だと解説する福部氏。スクリーンには、「教訓 高校生にはリアルな高校生を見せても響かない。なぜなら、毎日見ているから」。CMはちょっと夢を見させなければならないということを学んだと話す。

そして、妄想MAXなCMへ。一語は「青春ほどの難問はない。」× 一絵は恋の三角関係を表すように男女が立っている写真。広瀬すずさん、アリスさん姉妹を起用したCMの、twitterでの反応を紹介。「こんなかわいい二人との三角関係なんて、嘘つけ!っていう人もいて(笑)。ごめん、嘘ついた。俺も、こんなことなかった」と、TCC賞をもらった僕の本音のコピーだと「青春がないのも、青春だ。」という次の展開のCMを紹介。絵コンテになかった「アウト!」と叫ぶ審判は監督によるものだと明かす。「青春審判」と呼んでいるそうで、いい味を出している。このときのグラフィックは、別のコピーで展開していた。江口寿史氏に、すず&アリス姉妹を描いてもらい、「絵にかいたような青春、ください。」のコピー。売上、またうなぎ登り!となったそうだが、「MATCH = 女子高生っぽくなってしまった」というので、次の展開はもう一度、男子二人の友情を描くことになったそう。「ただし、一人は青春を粗末にしていて天罰が下る」というもので。一語は「青春は、戻らないらしい。」× 一絵は天龍源一郎さん。“紅の豚”みたいなのをやりたかったというバージョンも紹介。いままさに放映中のCMで、今後どんな展開が待っているのか楽しみだ。「商品を持っていないと先生と生徒のように見える二人が、MATCHを持った瞬間に高校の同級生に見えたんです。最初の“高校生ナンバーワン炭酸になりたい”という、何かそのオーラがついてきたかなと、内心嬉しかった」と福部氏。

続いて“どん兵衛”。カップヌードルやカップ焼きそばUFOの仕事もしたことがあるという福部氏は、うどんやそばは「だしには癒される」というところが違うと話す。そこで、ごん狐ならぬ“どんぎつね”の登場。一語は「どんぎつね」× 一絵は、狐の衣装のかわいい女の子。そしてCMを流した。当代きっての癒しキャラといえばこの二人だと、星野源さんと吉岡里帆さんを起用。「twitterでどんなことを書かれるのかと思っていたら、けっこうみんな同じことを書いていて「どん兵衛食ったけど、どんぎつね出てこない。いまから日清に電話する」って。商品にすごく近いところで作ったキャラクターは、機能するんだなと。商品も売れているし、今後続いていくので、この秋冬、この二人がどうなっていくか…。絶賛制作中なのでお楽しみに」と福部氏は楽しそうに話した。 

最後に紹介されたのは「docomoとミスチルの25周年」。福部氏はいまある企業スローガンの『いつか、あたりまえになること。』をいいコピーだと思っており、そこから今回は“あたりまえじゃなかった時代を描けばいいんだ”というところへ至ったと話し、“たったひとつの歌や、たった一本の電話で、人生は大きく変わるらしい”というのがコンセプトだとスクリーンに映し出す。「もしそれがなかったら、いま当たり前だと思っていることも、実は当たり前じゃなかったんじゃないか。わかりやすい例でいうと、父と母が出会っていなければ私という存在はなかったんじゃないかというストーリーを思いついた」と明かす。「1992年の17才から、2017年の17才へ。」と題した一枚の企画書をスクリーンに映し、プレゼンテーションのように福部氏が読み上げる。そして、一語は「あたりまえじゃなかった」× 一絵は0906と表示されたポケットベル。これは「おくれる」の暗号だと説明。一枚の企画書 = 字コンテをもとに、監督が作ってくれたという100コマ近い絵コンテも紹介。そしてそのCMが流れた。ラストにくる企業スローガンへ、ビシッと決まってくる4分。まるで一本の映画を見終えたかのように、会場はちょっとした感動の空気に包まれる。「役者さんたちが素晴らしい」と話す福部氏は、最初のシーンの高校生が高橋一生さんではなく高杉真宙さんなのは、話題づくりのためで、それがネットでは話題になっていたことなどにも触れ、締め括る。スクリーンには一語の「ご清聴ありがとうございました」× 一絵では、イラストのお二人がならんで頭を下げていた。