書体見聞

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第四回 リュウミンのかな

第四回 リュウミンのかな

かな書体でさまざまな表情を生む

かなフォントは通常、レイアウトソフトやユーティリティーによって漢字書体との組み合わせを設定して利用する。見本はAdobe Illustrator CS2 の「合成フォント」設定画面。

モリサワを代表する明朝体リュウミンには標準のリュウミン大がなの他に、4種類のかな書体がある。リュウミン小がな、リュウミンオールドがな、秀英3号かな、秀英5号かなで、それぞれリュウミンファミリーと同じく、LからUまで8ウエイトが揃っている。
日本語の文章は漢字とかなが大部分を占めるが、近年は、例えば、「~する時」を「~するとき」と記すなど、かなの比率が高まっている。現代の日本語組版ではかなが文中の60%以上を占めるともいわれ、下の例のように、かなを変えるだけで組版の印象は大きく変わる。
プロ向けのグラフィックソフトやレイアウトソフトには、漢字用のフォントとかな用のフォントの組み合わせを設定できるものが多い。それらを使ってリュウミンの漢字とかな書体を組み合わせることで、組版にさまざまな表情を生み出すことができる。
いわば、日本語タイポグラフィの鍵を握るともいえる「かな」。今回は、リュウミンのかな書体それぞれの特徴を見ていきたい。

かな書体という考え方は以前からあり、モリサワでは1963年からかな書体の写植機文字盤を販売していた。以降、かなと約物を1枚に納めた文字盤として多くのかな書体が発売された。
リュウミンのかな

リュウミン大がな、リュウミン小がな

KSのほうが漢字とかなの大きさの差があり、字間に適度な空きが生まれる。落ち着いたイメージで本文に向く。

前回の「リュウミン」で記したように、リュウミンは活字メーカー森川龍文堂の書体、新体明朝を原型として、モリサワが開発した書体だ。
リュウミン大がな(KL)、リュウミン小がな(KS)も新体明朝のかなを原型としている。ともに、リュウミンファミリーの中で最初に商品化されたリュウミンL(手動機文字盤、1982年)のかなとして登場した。
KL(Kana・Large)は、現在、PSフォントのリュウミンで標準のかなに採用されている。文字が大ぶりで、文字ごとの大きさの違いが比較的少ないため、縦組みでも横組みでもラインがきれいに揃うことが特徴だ。その汎用性の高さから、本文、見出し、タイトルと、スタンダードに用いられている。
一方、KS(Kana・Small)はやや小ぶりのため、漢字とかなのコントラストをつけられる。我々は日本語の文章を速読するとき、主に漢字で意味を拾って読んでいくと言われる。そのため、漢字に比べて小さめで、字間に適度な空きの生まれるKSは、KLと比べても可読性がさらに高く、本文に向いている。

リュウミンオールドがな

KS(左)と比べ、KO(右)は連綿(点画のつながり)を残した形をしており、やわらかい筆づかいを感じさせる。

日本の活字書体は、明治初期に設立された日本の金属活字製造の草分け、築地活版製造所の築地体と、明治30年代から独自の明朝体を築いた秀英舎(現・大日本印刷株式会社)の秀英体が二大源流とされる。
リュウミンオールドがな(KO、Kana・Old)は、明治末に完成したと言われる築地体のやわらかな筆致のかなを元に、モリサワが新たに書き起こした書体だ。1986年、リュウミンをファミリーとして発売する際、同時に発売した。

オールドがなを横組みでベタ組みにすると、字間が空きすぎてパラパラと見える場合がある。文字と文字の間を詰めると美しい組版を得られる。

KLやKSと比べると、文字の大小の差が大きく、組んだときにリズミカルな流れが生まれる。縦長のプロポーションの文字が多いのは、縦組みが主だった時代の活字書体のデザインを活かしているからだ。筆書きのスタイルと味わいが色濃く残っており、その流麗な字形から、広告コピーや雑誌などを中心に幅広く使われている。

秀英3号かな、秀英5号かな

もととなった活字サイズの異なる秀英3号かなと秀英5号かなは、デザインも大きく異なっている。また、カタカナはひらがなに比べて小さめに設計されており、活字時代のバランスに近いのも特徴のひとつだ。

秀英3号かなと秀英5号かなは、モリサワが大日本印刷株式会社から秀英舎活字の3号明朝、5号明朝のライセンスを受けて開発したかな書体だ。その洗練されたデザインから、近年は書籍のタイトルや雑誌などで使われることが多い。
活字はいわばハンコと同じで、印字する大きさを変えることはできない。それぞれの文字を号(活字のサイズの単位)ごとに原寸で彫るため、号によってデザインが異なっている。
モリサワでは、秀英体の個性を活かしながら、リュウミンに合うようにリファインを施した。1988年発売の秀英3号かな(3号は約16ポイント)はキレのある伸びやかな筆致が特徴だ。一方、1994年発売の秀英5号かな(5号は約10.5ポイント)はあたたかみのある表情をしており、ややノスタルジックな味わいがある。
秀英3号かな、秀英5号かなの完成により、築地体の系統であるKOと併せて、リュウミンには活字書体の二大源流に由来するかなが揃った。

縦組みの伝統と横組み

日本の文字は縦書きを主に、中心線を貫く書き方を基本にしてきた。その伝統がKOにはよく残っている。

日本語は、長い間、漢字とかなを交えて書かれ、組まれてきた。1950年代頃までは縦書きが主で、水平垂直の骨格を基本にする漢字と、やわらかな曲線からなる小さめのひらがなを、縦の中心線を貫くようにして記してきた。このことが読みやすさに貢献するとともに、視覚的なリズムを生み、日本語の文字組みのひとつの美学を作り上げたと考えられる。
例えば、古い時代のかなの形を色濃く残しているKOは、文字の上下の連なりを意識したデザインになっている。文字の大小の違いが残っていることもあって、縦組みにしたとき、美しい。

文字が大ぶりで、大きさが比較的均等なKLは縦組みにも横組みにも向いている。

一方、文字の大小の違いが比較的少ないKLは縦組みにも横組みにも使いやすい。横組みが普通になった現代の需要にマッチした書体だ。

かなの豊富さをデザインに活用する

リュウミンBとオールドがなMで組んだ例(右)。級下げした促音は、ウエイトを上げて調整してある。漢字・かなともBで組んだもの(左)と異なった雰囲気になる。

明朝体では、骨格とエレメントが整理されている漢字と比べ、ひらがなは文字によってカーブの形状やラインの抑揚などデザインの違いが大きい。それだけ表情が多彩といえる。このため、冒頭で見たように、かな書体を変えるとデザインの印象は大きく変わる。
リュウミンファミリーの場合、5種類のかなを漢字と組み合わせることができる。かなを少し細くするなど、漢字とかなでウエイトを変えれば、さらに微妙なニュアンスを生み出せる。この選択肢の豊富さもリュウミンファミリーの特長だ。
漢字の書体とかなの書体をどう組み合わせ、ニュアンスを伝えるか。それぞれのかなの特徴や味わいをどのように捉え、消化して、タイポグラフィとして表現するか。デザイナーの腕の見せどころである。