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Vol.5 モリサワが北九州市小学生車いすバスケットボール大会の支援を継続する理由

当社がパラスポーツ支援に取り組む中でも北九州市小学生車いすバスケットボール大会について、大会やそれまでの取り組みの様子の紹介とあわせて当社の考えるこの大会の協賛意義をモリサワのパラスポーツコラムVol.5でお伝えします。

北九州市小学生車いすバスケットボール大会とは?

北九州市小学生車いすバスケットボール大会(以下、小学生大会)は、毎年晩秋に北九州市で行われる北九州チャンピオンズカップ国際車いすバスケットボール大会(以下、北九州チャンピオンズカップ)の大会関連事業として国際大会や全日本ブロック選抜車いすバスケットボール選手権大会(以下、全日本ブロック選抜)とともに開催されてきた大会です。

毎年北九州市立の小学校の5年生が約半年間、学校の授業の一環で車いすバスケットボールに取り組み、その練習の集大成が小学生大会です。日本国内だけでなく世界的に見ても類を見ないこの取り組みは、2003年から今に至るまで一度も中止になることなく続いてきました。

第18回 北九州市小学生車いすバスケットボール大会の様子

参加校決定から大会開催まで

大会参加校は学校による挙手制で決定し、市の福祉事業団が所有する車いすバスケットボール競技用のバスケ車が各学校に10台ずつ大会終了まで貸し出されます。台数に限りがあるため必ずしも希望校すべてが参加できるわけではありません。近年は先生方の口コミや過去の実績から人気が高まっているのですが、大会参加校は最大5校を目安に、希望が多い場合は抽選も行われます。参加校が決まると体育や総合の時間を使って、いよいよ車いすバスケットボールに取り組み始めます。その指導には大会実行委員会事務局の指導員の方が携わり、週に1回各学校を訪問しています。子どもたちはまず初めて乗る車いすについて安全な乗り方や漕ぎ方から習得し、個々の技術を身につけてだんだん試合形式での練習に入っていきます。小学生大会での勝利を目指した本格的な時期に入ると、授業時間以外にも先生や子どもたちだけで朝練や昼休みの練習を行い、中には学校以外の時間に個人で練習に励む子どももいます。

小学生大会では5人制、1ピリオド6分間の計4ピリオドで試合が行われ、チームメンバー全員が一度は試合に出場することがルールです。思うような結果にならず悔し泣きをする子どももいれば勝って互いに抱き合いながら喜ぶチーム、対戦後に互いの健闘を讃えて握手をする様子、負けた後も他のチームを大声で応援する子どもたちの素直な反応や行動はこの大会の一番の見どころで、私たち大人は毎年ドラマを見ているような気になります。

応援も喜びも全力で表現

小学生大会との出会い、コロナ禍での開催と単独協賛に至るまで

当社が小学生大会に出会ったのは2019年の第14回大会のこと。小学生大会の決勝戦が北九州チャンピオンズカップの3つの大会の総合開会式直後に行われていて、小学生ながらに車いすバスケットボールの試合が成立している様子はとても新鮮でした。国際大会や全日本ブロック選抜以上に、初めて目にした小学生大会は教育的価値を大いに感じ、強く心に残った出来事となりました。

翌年、新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から世界中のスポーツ大会が中止となり、もれなく北九州チャンピオンズカップも開催が危ぶまれます。国際大会と全日本ブロック選抜は中止が決定していましたが、新学期から練習を続け大会の出場を楽しみにしていた子どもたちの活躍の場を残すために、大会実行委員会側ではどうやったら小学生大会だけでも開催できるかを模索していました。その状況を聞いた当社の担当は、小学生のうちの大事な1年間の行事が軒並み中止となっている中で、当社が協賛することによって小学生大会の開催の目処が立つようであればぜひ応援させてほしいと申し出をしました。コロナ禍での大会開催には高い壁もあった中、最終的に2020年の小学生大会だけは「未来の社会を担う子どもたちが、障がいへの理解と認識を深め、バリアフリーの意識や人へのやさしさを養うことを目的に、十分な感染対策をとりながら開催する」ことに決定し、小学生大会のみ開催された大会に当社は1社単独で協賛することとなりました。

大会用に当社が配布しているバルーンスティックの音で会場はとても賑やか

小学生大会の意義

2019年に小学生大会に協賛して以来、当社は毎年参加校すべての練習の様子をそれぞれ2, 3回程度視察させていただいています。車いす操作の習得段階である初期、競技の個人のスキルアップをする中期、ゲームを行いながらチームワークを学ぶ後期というように段階を追った練習の過程を視察し、技術力の向上だけに注視するのではなく、車いすバスケットボールを通して学ぶチームワークや心身の成長といった教育的な側面を見守っています。

子どもたちの性格、学校の雰囲気はその地域や年度によってさまざま。1校あたりの規模は全体的に小さく、近年は統合される学校もあります。これまで当社が見てきた大会参加校はだいたい15人から20人の1クラス、多くても2クラスの学校で、幼稚園や保育園の頃から顔ぶれはほぼ変わりません。小学5年生ともなるとクラスの中の役割も固定化していることも多い環境です。そうした子どもたちが誰一人として経験を持たない車いすバスケットボールの練習を始めると、初めてのスポーツに上手いも下手もないのでクラス全員が同じスタートラインに立つこととなります。それまではあまり目立たなかったり体育が苦手な子どもが車いすバスケットボールでは良いプレーで頭角を現すと、その子の周りの子どもたちの見る目が変わり、影響を受けて周りも変わっていく。それが循環し小学生大会が終わる頃にはクラスの雰囲気が良くなっているという出来事もありました。

自分たちを奮い立たせる応援メッセージで飾ったバスケ車(左)
決勝戦後には子どもたち自ら互いの健闘を讃えて握手する場面に胸が熱くなりました(右)

ユニバーサル社会を体現する大人へ

子どもたちの多様性が生み出す変化に、小学生大会ならではの醍醐味があると当社は感じています。東京2020大会を契機に子どもたちがパラスポーツに触れる機会は増えましたが、とりわけ北九州の子どもたちは半年間の練習の過程で他者に対してより柔軟な理解ができるようになるはずです。彼らはきっとこれからのユニバーサル社会を体現する大人へと育っていくことでしょう。今では、過去に小学生大会に出場した児童が大学生、社会人となり、北九州チャンピオンズカップをボランティアとして支えている人もいます。当社は未来の北九州のために続けられてきたこの取り組みに関わらせていただきながら、目的のコアとなるチームワークを通じた心身の成長と毎年の子どもたちの多様性からユニバーサル社会を一緒に考えていく学びや活力をもらっています。それと同時に、マイナーな取り組みゆえに設備や指導者の確保、学校や保護者、開催協力機関の理解、その他運営にかかるたくさんの壁にも直面しながら毎年なんとか維持しようと励んでいらっしゃる大会実行委員会の方々の苦労も間近で見てきました。小学生大会を通じてこれまで見てきたものは、当社のパラスポーツ支援の考え方にフィードバックするとともに、一緒にパラスポーツを応援している企業や団体の方々にも共有し、より優しい社会に繋がっていくよう活動しています。そのひとつとして、これからもこの取り組みを絶やすまいと、微力ながらこうしたコラムで紹介し少しでも小学生大会の認知度を高めていくことが今後のミッションと考えています。

挨拶、返事、素早い整列など、練習時間を無駄にしないために大事なことを身につけてきた半年間

「MORISAWA × Para Sports」では、パラスポーツを支える人々や企業の視点からユニバーサル社会を伝えるシリーズ“Messenger”と、パラアスリートの競技をはじめとしたあらゆる挑戦を描くシリーズ“Challenger”の2つのシリーズにてお送りいたします。