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Vol.6 北九州市小学生車いすバスケットボール大会と思いやり日記帳

モリサワパラスポーツコラムVol.5に続き、今回のVol.6では北九州市小学生車いすバスケットボール大会(以下、小学生大会)のために当社が制作したオリジナルノート思いやり日記帳を通じた取り組みを紹介いたします。
Vol.5 モリサワが北九州市小学生車いすバスケットボール大会の支援を継続する理由
こちらもあわせてお読みいただければ幸いです。

「思いやり日記帳」とは

当社の考える小学生大会の意義と子どもたちの成長に向き合って考えたアイテムが、この「思いやり日記帳」です。

制作コンセプトは「思いやり」。練習を視察させていただいていると、車いすバスケットボールの練習は競技力を磨き技術を習得することが目的ではなく、チームスポーツを学ぶ「教育」こそがこの大会の意義だと気付かされるようになりました。一人が上手なだけではチームスポーツは成立しない、仲間のことを思いやったプレーを繋ぐことでチーム全体がまとまっていき競技のレベルも上がる。半年間の車いすバスケットボールの練習を通じて、誰にでも思いやりを持って接することのできる人になってほしいという当社からのメッセージを込めて、「思いやり日記帳」というタイトルに決定しました。

小学生大会オリジナルのこのノートは、2022年第17回以降、小学生大会の参加校の子どもたちに配布しています。

思いやり日記帳の内容紹介

表2マンガ形式の読み物「車いすバスケから学ぶ思いやり編」
練習を始めたばかりの時期はバスケ車のチェアワークで精一杯。周りの様子が見えずパスが繋がらなかったり、座った状態で投げるシュートがなかなか決まらず焦る日々。そんなときに指導員の方から「自分が今からどうするのか、チームのメンバーにどうしてほしいのか声を出す」ようにと声がかかります。○○さんに取ってほしいという気持ちを込めた「思いやりのパス」を届け、シュートチャンスは誰に・どこにいるのかを互いに声かけすることで得点に繋がっていく。チームプレーである車いすバスケットボールは応援も含めてコミュニケーションが大事だと教わります。

表3マンガ形式の読み物「フォントから学ぶ思いやり編」
車いすバスケットボールで学んだ思いやりの心は子どもたちの身近な文字にも表れています。「文字のかたちがわかりやすい」、「文章が読みやすい」「読み間違えにくい」ことをコンセプトに思いやりの心でデザインされたUD(ユニバーサルデザイン)フォントがそのひとつ。情報を届けたい相手のことを考えてフォントを選ぶことというのも実は思いやりのひとつです。
「思いやりにはどんなものがあるかな?書き出してみよう!」さまざまな思いやりの形を振り返るページ
表4のイラストも参考にしながら、意識していなかった思いやりの例をたくさん書き出し、クラスメートとも照らし合わせることで身近な思いやりを再確認できるようにしました。

「車いすバスケに取り組んで感じた感謝の思いを伝えよう!」大会後の寄せ書きページ
車いすバスケットボールに取り組んで新しく見つけたチームメンバーの良いところを書いて互いの理解を一層深めてほしいこと、また車いすバスケットボールに取り組んだことをひとつの思い出にしてほしいと願っています。

そのほか、5mm方眼のページ
試合のルールやその日の練習の目標、学びとなったポイントなど、日々の練習の日記帳として自由に記録できるよう、縦書きでも横書きでも使いやすい5mm方眼を採用しました。

思いやり日記帳の企画と配布の経緯

授業の視察を思い返すと、コート外の子どもたちは体育館のホワイトボードに指導員の方から受けたアドバイスや自分たちで気付いたことを書き、チーム全員が意識して練習する光景がありました。これをホワイトボードだけでなく子どもたちが自分の言葉で自分のものに書き残して積み重ねれば、より充実した練習にしてもらえるのではと考えたのが思いやり日記帳制作の経緯です。

これを企画したタイミングでは2022年の小学生大会の参加記念品という形の配布となりましたが、次年度以降は「日記帳」として意味のある活用のために配布したいという思いがあり、翌年の2023年度の参加校に対しては練習始めに子どもたちに配布することになりました。

思いやり日記帳の活用と反応

授業以外にも運動会や宿泊体験、その準備のための学習時間など、小学5年生の1年の行事は盛りだくさんです。その忙しい1年間に、授業時間も使って車いすバスケットボールの練習に半年も時間を費やすということは先生方や子どもたちにとっても簡単なことではありません。

大会参加校が決まる春、実行委員会が参加校の先生方向けに開催する学校説明会の際には当社も同席させていただいています。小学生大会を応援している当社の姿勢を知っていただきたいという紹介とともに、当社がこの取り組みに向き合って制作・企画した思いやり日記帳の使い方を直接ご提案させていただきました。ただし、「良かったら日々の練習にご活用ください」とお伝えし、実際に使うかどうかは先生方にお任せしました。

学校説明会で思いやり日記帳とともに配布した使い方説明資料の抜粋

思いやり日記帳を当社の期待以上に活用いただいた学校のひとつが城野(じょうの)小学校です。1回あたりの練習に見開き1ページを使って、その練習時間での目標、学び、次回に向けたポイントや準備などが子どもらしいイラストとともに書かれ、先生もその一人一人のノートに丁寧にコメントを記入していらっしゃいました。当社が練習の視察で訪れた際、「ノートをプレゼントしてくれたモリサワさんに見てもらおう」と自ら子どもたちがノートを見せに持って来てくれ、改めてこの取り組みを応援できる喜びを感じ、車いすバスケットボールで心身ともに大きく成長してほしいとより一層感じる出来事となりました。

当社が練習の様子を視察に訪れた際、練習後にノートを見せに来てくれました

参加校インタビュー:城野小学校 西村美樹先生

そんな、練習当初から思いやり日記帳をフル活用いただいていた城野小学校の担任の先生である西村美樹先生にお話をお伺いすることができました。

小学生大会でコートサイドから応援する城野小学校西村美樹先生(画像中央)とクラスの子どもたち

城野小学校さんが小学生大会に参加したいと思ったきっかけを教えてください。また、思いやり日記帳について、学校説明会で弊社から配布させていただいた当初から活用しようと思ってくださったのでしょうか?

今年の5年生はもともと人が良く、穏やかな性格の子どもたちでした。諦めない気持ちや困難にぶつかってもめげないガッツの心を身につけてほしいと思い小学生大会の参加を決めました。試合に勝つことよりもその過程を大切にしていきたいと思っていたので、そのための振り返りシートを用意しようと思っていたところ思いやり日記帳をいただいたので活用させていただきました。

記録をとることで、子どもたちも今までの自分を振り返るとともに成長を感じ取ることができたようです。また、「参加するみんなにだけもらえたノート」という特別感もあってとても喜んでいました。

 

子どもたちはいつ、どんな内容を書いていたのでしょうか?

書く内容は3つ。自分のノートなので書く量については特に決めていませんでした。

①その日に頑張るめあて
②教えてもらったこと(大切だと思ったこと・ポイント)
③振り返り(次の練習の時間に頑張りたいこと・自分や友達の成果や課題などの気付き)

週に1回の指導員の方の訪問指導がある日の朝、自習時間に①を書き、練習が終わって②③を書いていました。5時間目に練習がある時は6時間目の図書の時間を10分くらい使ったり、5〜6時間目が練習の時には家に持って帰るか次の日に学校で書いていました。書くことを強制してはいなかったのですが、子どもたちは進んで書いていました。

また、クラスでは友達のノートの工夫の例を紹介していました。

紹介例:「○○さんはキャラクターを描いて楽しく工夫していたよ。」「○○さんは友達の良いところを書いていたよ△△さんのパスが取りやすくて自分も真似したいそうだよ。」「○○さんは図や絵で動きやボールの持ち方を描いていてわかりやすかったよ。」

教科の学習と違って、子どもたちは自分で工夫しながら楽しく思いやり日記帳に書いていました。また、友達に「どんな風に書いた?」とノートを見せ合ったり、褒めてもらった子は次の機会に今度は友達の良いところを見つけて書いていました。

教わったことや練習の振り返りを練習後の体育館の床で書く子どもたち

一人一人の思いやり日記帳に西村先生もコメントを書いていらっしゃいました。コメントを書きながら感じた子どもたちの半年間の変化などはありましたか?

担任からのコメントは、子どもたちが思いやり日記帳に書いて提出したあと、次の練習までには目を通してコメントを書きました。初めは、子どもたちは自分が上手になることに精一杯だった様子でしたが、上手になるにつれて友達の成長に気付いたり、チームのために何ができるのかを考えたり、チームの課題や解決方法といった内容に変わっていきました。技術に伴って、心も大きく成長したように思います。

大会の前日には、思いやり日記帳を改めて振り返る時間を作りました。初めのページを見た子どもたちは、「こんなめあてだった。」「懐かしい。」と話していて、ノートは一人一人がどのように向き合って取り組んできたかが分かる宝物になりました。指導員の方やモリサワさんに褒められたことも嬉しかったり、自信にも繋がったようです。小学生大会が終わって、最後のページには「ありがとう」の気持ちが溢れていました。

「ありがとう」や「思いやり」の文字がたくさん
西村先生も使ってくださっていました

西村先生、お話を聞かせていただきありがとうございました。


思いやり日記帳は、2019年から小学生大会をサポートして来た中で子どもたちや先生方と当社を繋いでくれたものとなりました。これからも、小学生大会と当社らしいコンテンツとして練習の役に立てれば嬉しく思っています。

これからも当社は小学生大会の協賛と思いやり日記帳を通じて、子どもたちの豊かな成長に貢献してまいります。

「MORISAWA × Para Sports」では、パラスポーツを支える人々や企業の視点からユニバーサル社会を伝えるシリーズ“Messenger”と、パラアスリートの競技をはじめとしたあらゆる挑戦を描くシリーズ“Challenger”の2つのシリーズにてお送りいたします。