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ヴェルク株式会社

クラウド請求書作成サービスで
UD新ゴを採用
インボイス制度で利用者が広がる
電子帳票をよりアクセシブルに

ヴェルク株式会社
  • ヴェルク株式会社
    代表取締役/エンジニア

    田向 祐介氏

インボイス制度の導入や電子帳簿保存法の改正に伴って請求書の電子化が進み、請求書発行サービス市場の拡大が続いている。ユーザーの選択肢も増えるなか、中小企業や個人事業主にフィットしたサービスで存在感を示しているのが、ヴェルク株式会社の開発したクラウド請求書作成サービス『board』だ。 

同社は業務効率化につながる機能の開発はもちろん、Webアクセシビリティの改善にも積極的に取り組んでいる。より多くの人にとって見やすい帳票とするべく、2023年10月には書類で使用するフォントを変更し、新たにモリサワのユニバーサルデザインフォント(以下、UDフォント)である「UD新ゴ」を導入。同社の代表取締役であり『board』開発者である田向祐介氏に、フォント導入の経緯やアクセシビリティへの取り組みなどを伺った。

中小企業のビジネスモデルに即した『board』の設計

『board』は見積書や請求書の作成をはじめ、営業管理や受発注管理などの周辺業務を一元的に管理できるクラウドサービスで、数人から数十人規模の中小企業や個人事業主を主な対象としている。開発の経緯をたずねると、「僕が欲しかったんです」という答えが返ってきた。

「開発当時(2014年)、請求書を作成するサービスはあっても、業務管理ができる中小企業向けのサービスが無かったのです。業務管理までできるサービス自体は存在しましたが、支払う利用料のケタが違い、中小企業にとっては現実的ではなかった。それならば自分で作ろう、事業にならなかったら社内システムにすればいいや、という感覚でスタートしました」

『board』の開発には、実際に経営と実務を兼務する田向氏の「ユーザー目線」がふんだんに盛り込まれている。例えば、「案件ごとの管理」はそのひとつだ。一般的な請求書発行サービスの単位は「帳票」であり、単独で請求書を作成することもできるが、『board』は案件という一つの箱を作成した上で、そこにひもづく見積書や請求書などを入れて管理する。

「同時にいくつもの仕事を抱える事業者にとって“案件”はごく当たり前の概念ですが、それを軸にしたサービスは存在せず、自分自身が非常に困っていたんです。案件ごとで業務を管理する方法は、当社のような受注業務をメインで行っている会社には非常に良くフィットする。『board』が評価されている大きな理由だと思います」。

また、「従業員数10人程度の会社がバックオフィスのシステムに月数万円は払えないので、抑えた価格設定にした」と田向氏が言うとおり、法人向けプランでも月額数千円という圧倒的なコストパフォーマンスで提供。その他さまざまな外部サービスと連携して使える点など、現場の業務に即したサービス設計が多くのユーザーに評価されている。

“board利用者の先にいる人たち”にも届けるために「UD新ゴ」を導入

『board』はCUD(カラーユニバーサルデザイン)認証を取得しており、2019年5月以降、ログイン内の画面をCUD対応としている。認証取得のきっかけは、「日本人男性の5%」を占めるという色弱者の割合だと田向氏は話す。

「実は5%って、開発当時のboard利用者における、Webブラウザ『Safari』のシェア率よりも高かったんですよ。エンジニアとしてクロスブラウザ対応※1と同様に、多様な色覚への対応も必要ではないかと考えていたところ、偶然にもユーザーの方からCUDO(カラーユニバーサルデザイン機構)を紹介していただく機会があり、取り組むことになりました」
※1クロスブラウザ対応: Webブラウザの種類を問わず、Webサイトの見え方・動作を統一させること


『board』の案件一覧画面は受注ステータスがひと目でわかるよう、赤・緑・黄などに色分けされているが、色覚タイプによっては赤と緑の区別がつかない。また、注意喚起に使用する赤字も、赤と黒の識別ができない色覚タイプの人にとっては意味をなさない。より多くの人に伝わるようにするには配色を変更する必要があるが、大きな改変は既存ユーザーが混乱するおそれがある。そこで、既存の色の系統を維持しながらCUD対応の配色に調整しなければならず、この作業が非常に大変だったという。ただこの経験が「アクセシビリティ(より多様な利用者が製品やサービスを利用できること)」への知見を深める契機となった。

既存の色の系統(赤と緑)を維持しつつ、CUD対応の配色に調整されている。

「ディスレクシア※2のように、私たちが考える“見えやすさ”とは別の理由で文字を識別しづらい方がいることも学びました。僕は長年読みやすいフォントを選んできたつもりでしたが、完全に主観でしかなかったことに気づかされたのです。本当に読みやすいフォントとは、きちんと研究された上で設計されているのだと、文字に対する概念が変わりました」
※2ディスレクシア:文字の読み書きに限定した困難がある学習障害


今回、書類PDFで使用するフォントにUD新ゴを導入した理由も、アクセシビリティ改善の一環であるという。

「『board』で作成した見積書や請求書を受領する側、つまり“board利用者の先にいる人”がどのような人なのか、こちらがうかがい知ることはできません。ならば、私たちのサービスで作成する書類にも読みやすい文字として設計された文字を使うべきだと思いました。フォントの知識が全くなかったので、モリサワさんにはアクセシビリティについても伝えた上で、フォント候補をピックアップしてもらいました」

バックオフィスのシステムは一画面の中に集約する情報が多いため、見やすさと情報量を両立させるバランスが難しい。特に見積書や請求書のように多くの数字が並ぶ帳票に関しては、文字幅が広いフォントだと認識しづらくなってしまう。複数のフォントで実際に検証を繰り返し、もっともバランスがよいと感じた「UD新ゴ」の採用を決めた。ただ、検証フォントの組み込み時には思わぬアクシデントもあったという。

「UD新ゴの検証フォントを『board』へ組み込んだ際は一度レイアウトが崩れてしまったのですが、そこをモリサワさんに細かくフォローしていただきました。フォントは“完成した製品を買う”というイメージだったので、正直なところこれほど丁寧に対応してもらえるとは思っておらず、とてもありがたかったです」と田向氏は振り返る。

UD新ゴ|書体見本

アクセシビリティはUDフォントを使うだけでも改善できる

UDフォントの導入は、思いのほか反響があったという。
「ユーザーからは『とても見やすくなった』や『UD新ゴが使えるの!?』といった声が届きました。そもそも、バックオフィスのサービスには有償フォントが使えるイメージがなかったためか、かなり反響がありましたね。書類を受領する方を想定した対応だった点にも、共感や評価の声が集まりました。面白いなと感じたのは、デザイナ―など普段フォントに対して関心が高いであろう人たち以外からの反応も多かったこと。それだけ、UDフォントの認識が高まってきているということなのかもしれません」

インボイス制度施行を機にクラウドサービスの利用が広がり、同社への問い合わせも増えているという。UDフォントの導入とインボイスとの直接的な関連はないが、サービスの利用人口自体が増えれば電子帳票を目にする人も当然増える。

「アクセシビリティの改善は個人の知識に依存していてはなかなか広まりません。日々の業務で使用している仕組みの中でUDフォントを利用することで、board利用者の先にいる人たちにも届けられ、リーチできる層が広がる。そういう意味では、このタイミングで導入してよかったと思っています」

 

CUDの検証のほか、スクリーンリーダー(コンピュータの画面読み上げソフト)を利用した操作への対応など、現在も継続的に取り組みを進めている。アクセシビリティ改善はハードルが高いように思えるが、「UDフォントは非常に取り組みやすい改善方法のひとつ」と田向氏は話す。

「CUDやスクリーンリーダーは地道な検証作業や技術的な問題をクリアする必要がありますが、UDフォントは導入するだけで確実に文字を読みやすくなる人がいる。もちろんそれだけですべてが解決するわけではないですが、着実に改善すると思うのです。たとえば日常業務で作成する資料などでもUDフォントを使うことが当たり前になるように、フォントや文字の見やすさを研究し続けているモリサワさんが今後も情報発信をしてくれることを期待しています」

ユーザーからの高い支持を得て、『board』の有料導入社数は5,000社を突破(2024年1月時点)。今後はどのような展開を考えているのか聞いた。

「当社は“10人規模の会社で1万社が使うサービスを”というスタンスで経営しています。少人数のまま、なるべく人に依存せず事業展開していきたいですね。当社の規模でアクセシビリティ対応を行っていることによく驚かれるのですが、確かに短期的な事業拡大を優先するやり方ではないかもしれません。ですが、今回のUDフォントの導入も含め、お客様やその先にいる人に届けるサービスのクオリティーは上げていきたいし、そういった改善をずっと続けていきたいという強い想いがあります。なので経営者としては、今後もよいシステムを開発できる事業体力を維持しつつ、なおかつ自分も創り手として質の良いサービスを提供していきたいと考えています」

 

「より多様な利用者が快適に利用できる」環境を当たり前にするために、ヴェルクの挑戦はまだまだ続く。その挑戦が一歩ずつ、けれども確実に、世の中を変えていくはずだ。