株式会社Mizkan
これからも愛される存在であり続けるため
「味ぽん」発売60周年の節目を彩る
オリジナルフォントを開発

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株式会社Mizkan マーケティング本部 マーケティング推進部 デザイン課
山田 英子氏

長年にわたって日本の食卓を彩り、多くの人々に愛されてきた、株式会社Mizkan(以下ミツカン)の「味ぽん®」。そんな“国民的調味料”の発売開始60周年を記念し、2024年に商品ロゴをベースにしたオリジナルフォント「味ぽんフォント」をモリサワと企画・開発した。制作に至った経緯や、「味ぽん」ブランド強化に向けたフォントの活用法などについて、株式会社Mizkanマーケティング本部 マーケティング推進部 デザイン課の山田氏に話を聞いた。
「喜んでほしい」想いを原点にオリジナルフォント開発を決意
鍋専用調味料として1964年11月に誕生した「味ぽん」は、鍋以外の“かける”用途や調理の味付けなど活用の幅を広げ、ぽん酢市場シェアNo.1※1を占める、ミツカンの看板商品のひとつだ。かんきつ果汁と醸造酢、しょうゆが生み出す絶妙な味わいとともに、商品ラベルのロゴも消費者にとってなじみ深い存在となっている。
オリジナルフォントの開発は、発売60周年の節目に合わせて企画された。発案のきっかけは、「味ぽん」をテーマに夏休みの自由研究を完成させた男の子だったと、マーケティング本部 マーケティング推進部 デザイン課の山田氏は話す。「自由研究のお礼に、ラベルの『味』の部分に男の子の名前を入れた『オリジナル味ぽん』をプレゼントしたところ、とても喜んでくれて。この時は既存フォントを使用して作成したのですが、味ぽんらしいフォントで再現できれば、と考えたのが出発点になりました」。
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それまでも企画などで「味ぽん」のロゴに寄せた名前入りラベルを制作したことはあったが、制作者が違うとどうしてもデザインにバラつきが生じてしまう。「味ぽん」ブランドの価値を守り、さらに高めていくためにも、一貫性のあるオリジナルフォントが必要ではないかという思いが芽生えたという。加えて、60周年のテーマ「お客様の声を形に」と通ずる部分があったことも、開発を決意する後押しとなった。
ただ「味ぽん」は一大ブランドであるだけに、この新しい試みには慎重な意見もあったという。「社内には、フォントを作ったところで本当に『味ぽん』らしさが出せるのか、という声もありましたが、モリサワさんにオリジナルフォントを制作する意義から活用の事例までさまざまな話をうかがい、それを元に説得を重ねました」。さらに、各部署にフォントの活用シーンをヒアリングして使い方のアイデアを提案に盛り込み、ゴーサインを引き出した。「モリサワさんには社内提案の段階でお声がけしたのですが、親身になって相談に乗っていただき、ぜひお願いしたいと思いました」と、山田氏は当時を振り返る。
- ※1 出典:インテージSRI+、エリア:全国、期間:2024年3月-2025年2月、カテゴリー:当社定義「ぽん酢」カテゴリー内ブランドシェア
「味ぽん」らしい“愛嬌”と混植時のバランスを追求
「味ぽん」のロゴは、線の起筆と終筆部分が水平、垂直で、かつ曲線の柔らかい丸みを持った、実直さと親しみやすさが同居したデザインとなっている。今回は、このロゴの文字をベースにした95文字のひらがなに加え、名前入りラベルなどへの展開を想定し、「ぽん」「味ぽん」のロゴをフォント(合字)として開発した。
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実際の活用場面では漢字との混植も想定されるため、ロゴの形状と親和性が高いモリサワのUD新ゴと組み合わせる前提で制作をスタート。フォントデザインは、豊富な経験を持ち、UD新ゴ制作メンバーでもあったモリサワのタイプデザイナーが担当した。
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ひらがなに関しては、柔らかく人懐っこい「味ぽん」の持つ“愛嬌”を表現するために、1字ずつ繊細なチューニングを施している。例えば「き」「さ」のようにはねがある文字はシャープな印象になりやすいため、最初のデザインから修正を重ね、はねの角度を緩やかにしている。同時に、UD新ゴと混植しても自然に見えるように文字のバランスを調整しており、例えば、半濁点の大きさは、UD新ゴのカタカナに近づけるなどしている。
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また、元々扁平に作られている「味ぽん」ロゴは、そのままフォント化しようとすると横幅が規格のサイズに収まらず、混植時に違和感が生じてしまう。そこで、ロゴのイメージを保ちつつ横幅を縮め、「味」の天地を広げてUD新ゴのサイズ感に合わせた。
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文字の細かい調整においては、「味ぽん」ロゴを制作したデザイナーがアドバイザーとして参画したことが大きかったと振り返る。「フォントデザインは独特で、何をどうすればより“らしさ”がでるのか、言語化して伝えるのが難しいところもありました。ロゴデザイナーの方に入ってもらったことで、テクニカルな部分や細かいニュアンスも、プロ同士のやり取りでスムーズに伝えられるようになりました」。
こうして「味ぽん」ロゴが持つ印象はそのままに、漢字やカタカナと混植してもバランスのよいオリジナルフォントが完成。山田氏は「何度も調整していただく中で、その都度味ぽんらしいデザインになっていく過程を感じることができました」と評価する。また、オリジナルフォントを制作したことで、フォントの理解をより深めたいと考えるようになったという。「モリサワさんにお願いして、デザインチームのメンバー全員が参加する勉強会を開いていただきました。フォントを作る過程や印刷に関するお話も伺うことができ、フォントの奥深さに触れることができました」。
ラベル印刷のプリンター導入も二人三脚で
完成した「味ぽんフォント」には、社内外から大きな反響があったという。「オリジナル名刺」を作成して取引先の方にお渡しすると興味を持ってもらえて、60周年の取り組みを説明するよいきっかけになりました。また、社内報に掲載した際には『名刺を作りたい』『グッズ展開してはどうか』と、普段「味ぽん」に直接関わっていない部署からも多くの反応やアイデアが寄せられ、改めて「味ぽん」は広く愛されている商品なんだな、と実感しました」
なかでもオリジナルフォント制作のきっかけでもあった、「名前入りの『オリジナル味ぽん』を作りたい」という声は多く、早速オリジナルラベルの制作に取り掛かることとなった。しかし、ここで大きな壁に直面する。「実際のラベルのオレンジ色は特色(色見本に合わせてインキを調合)なので、オンデマンドプリンターでは色が合わないんですね。かといってオフセット印刷にすると膨大なコストがかかってしまう。せっかくの計画が進まず、モリサワさんについ愚痴をこぼしたところ、お手伝いできますよ、と言っていただいて」。
印刷業界に根付いた営業活動で培った知見を生かし、モリサワの担当者が数社のプリンターを検証。山田氏と共にデモにも参加し、発色と合わせて操作の簡易さ、コストなどの要件を満たすエプソン社製のプリンターを導入した。
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山田氏は「(モリサワは)フォント専門の会社だと思っていたので、守備範囲の広さに驚きました。導入したプリンターで印刷したラベルは実物と比べても見劣りしない出来で、本格的な活用はこれからですが、社内からは『家族に好評だった』『取引先に渡したい』といった声が届いています」と笑顔を見せる。「オリジナル味ぽん」や名刺のほか、愛知県半田市にあるMIM(ミツカンミュージアム)でのグッズ展開や、ECサイトでの名入れサービスなどさまざまなアイデアも浮かんでいるようで、「味ぽんフォント」の活用範囲はさらに広がりそうだ。
「『味ぽん』は長年大切にしてきたブランドです。変えてはいけないところは守りながらも、お客様に喜びや、ちょっとした驚きを届けるためには、同じところに留まっていてはいけないと考えています」。今後の「味ぽん」ブランドがどのような進化を遂げるか、注目していきたい。
- ※味ぽんは株式会社Mizkan Holdingsの登録商標です。
- ※掲載されている情報は2025年4月時点のものです