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武蔵野美術大学 造形学部 視覚伝達デザイン学科

書体の使い方を自分で
考えてほしい。
書体の数が多いほど
そのチャンスがあり、
そして学生の数だけ
可能性が広がっていく。

武蔵野美術大学 造形学部 視覚伝達デザイン学科
  • 武蔵野美術大学 造形学部 視覚伝達デザイン学科 教授

    白井 敬尚 氏

将来のヴィジュアル・コミュニケーションを担う人材を育成することを目的としている、武蔵野美術大学・視覚伝達 デザイン学科。同学科はこれまで培ってきた伝統を活かし、基礎を鍛えながら、印刷物・映像・デジタルメディア など、多様な広がりを見せる表現形態とコミュニケーション、テクノロジーを交差させた教育を行っている。同学科の 白井敬尚教授に、MORISAWA PASSPORTのメリット、そしてアカデミック版への期待についてお話を伺った。

基礎的な教育の中で文字の重要性を知る

武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科でタイポグラフィとグラフィックデザインを教えているのが、今回お話を伺った白井敬尚先生だ。白井敬尚形成事務所を主宰するデザイナーであり、武蔵野美術大学には2012年4月に教授として着任した。

「武蔵野美術大学は伝統的にエディトリアルが強いと言われていますが、今でもその伝統は続いていると感じます」と話す白井先生。その伝統を支えているのは、視覚伝達デザインについて基礎的なことを学ぶ1~2年生の間に受ける授業だ。「1年生はまず、コミュニケーションの基本原理について学びますが、それらの授業と並行して、1年生の前期からタイプフェイスについての授業があるのです」

タイプフェイスについての授業は、身体的な感覚を起点として、文字が実際にフォントとして使えるものになるまでを実践する内容になっている。「前期では、自分で文字を手で書いて、それをスキャンしてフォント作成ソフトに取り込みオリジナルの書体を作ります。学生には“ともかく自由に字を書いて見なさい”と話します。道具は何を使っても構いません。最初のうちは、字種によって大きさがマチマチだったり、そもそも個性的すぎて読めなかったりする。しかし、書くことを何回も繰り返していると、やがて落ち着いてきます。実際にスキャナーで取り込んでフォント作成ソフトに取り込む作業を経ることで、文字を規格化すること、様式化されていくことはどういうことかを体現できます。」

また、同学科では活版印刷を体験する授業も用意されている。「鋳造活字の作られ方や使い方も、手書きの文字をフォント化してそれを使用するということも、基本的な原理は同じなのだということを理解してもらいます」と白井先生。

後期ではさらに、詩を選んで実際に文字を組んでみるという授業が行われる。「本文を組むというところまではまだ達していませんから、詩を選んでそれに文字を乗せてみるという作業を行います。学生は各々、内容のことを思い浮かべながら、ことばと活字と向き合うのです」

「無自覚に書体を選ぶこと」を自覚する

そして2年生の前期では、テーマに沿った制作物を手がける。ここでも文字は重要な役割を果たす。「食べ物のレシピをテーマにして実際に何かを制作してもらいます。レシピがテーマであればどんな媒体を選んでも良いですし、どのようにアプローチしても構いません」と白井先生は話す。実際に授業風景を見せていただくと、印刷メディアを選んでいる学生が多いようだ。「レシピのどこに注目するのかを決めるのは、学生の自由です。自分で料理を作り、ときには取材に出かけ体験し分析をする。そして自分でテキストを作って編集する中で、何を伝えたいのか、どうやって理解してもらうのかを、学生自身が考えるのです」

お話を伺った段階では、学生の作品はかなり完成に近づいている段階に見えたが、細かい仕上げのところで悩んでいる学生も多く、白井先生が作品を見ながらアドバイスをしているところだった。「ある学生は寿司を取り上げていますが、私から見ると文字が小さいように思えます。しかし学生本人に聞いてみると“これは、ふだんあまり寿司を食べない、若い世代に読んでほしいんです。だからこの書体と大きさでも大丈夫だと思う”と言う。学生なりに、ターゲットや内容を考えて文字を選んでいることがわかります」

コンピュータルームにあるMacには、MORISAWA PASSPORTが導入されている。アプリケーションのフォントメニューを出せば、そこにはたくさんの書体が表示されている。「書体の選び方については、2年生前期の段階ではまだまだ無自覚です。フォントメニューにズラッと書体が出てくるのを見て“なんとなく合うから”と選んでいるのが現実でしょう。むしろこの段階では、無自覚に選んでいるのだということを自覚してもらうくらいで良いのです」

書体と学生の数だけ 表現の可能性が広がっていく

モリサワの全書体が使用できる「MORISAWA PASSPORT」。書体を「無自覚に」選んでいる段階では、あまりに種類が多くてどう使って良いのかわからなくなってしまうかもしれない。しかし白井先生は「書体の種類が多すぎて、選び方がわからない!ということを経験するのも良いだろうと思っています」と話す。

現在は大学のMacに導入されているが、白井先生は今後提供される予定のMORISAWA PASSPORTアカデミック版についても期待をしており、「データを自宅に持ち帰って作業をする学生がほとんど。だから、大学と自宅とで同じフォント環境があったほうが便利なのは確かです」と話す。

そして、学生が学校でも自宅でも豊富な書体が利用できるメリットをこう説明する。「書体を選ぶには審美眼が必要です。その養い方は、歴史的な出自から入っても、書体の使われ方、どういった内容にどんな書体を合わせればうまくいくのかといった感覚的なことなど、どこから入っても構いません。ただひとつ言えることは、書体に“良い悪い”は無いということ。使い方次第で、その書体の良さを活かすことができます。そのチャンスが、書体の数だけあるのです。学生がMORISAWA PASSPORTの書体に触れることで、書体の良いところ、書体の使い方を知ってほしいと思います。人が変われば書体の使い方も変わりますから、書体の数と同じように、学生の数だけ可能性が広がると言えます。そして、多様な言葉が視覚化されることが期待できるのです」

最後に白井先生は、モリサワの見本帳を持ち出して、こう話してくれた。「見本帳の存在を知らない学生も多く、配布するとびっくりされることもあります。見本帳の言葉には意味がありませんが、だからこそ、インクの乗った文字の強さを知る機会として、そして文字の本質を考える機会として見本帳は有効です。学生にそういうモチベーションを持ってもらうためにも、書体が学生との距離を埋めていってくれればと思います」