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武蔵野美術大学 造形学部 視覚伝達デザイン学科/ 基礎デザイン学科/ デザイン情報学科

学生個人のPCに
豊富な書体が入り
授業以外でも使える。
学生にとっては
これ以上ない
書体の学びを
深める機会です。

武蔵野美術大学 造形学部 視覚伝達デザイン学科/ 基礎デザイン学科/ デザイン情報学科
  • 武蔵野美術大学 造形学部 視覚伝達デザイン学科

    白井 敬尚 教授

  • 武蔵野美術大学 造形学部 デザイン情報学科

    森山 明子 教授

  • 武蔵野美術大学 造形学部 基礎デザイン学科

    板東 孝明 教授

美術・デザインの分野を中心に多種多様な角度から学生を育成し、レベルの高い人材を輩出し続けている武蔵野美術大学。その中でも、タイプフェイスやタイポグラフィの授業に力を入れる視覚伝達デザイン学科、基礎デザイン学科、デザイン情報学科のデザイン系3学科が、2019年より「MORISAWA PASSPORTアカデミック版」を1年次の全学生に導入した。学内のPCとともに学生個人のPCに書体を入れることを選択した背景と、この先期待することについて、時代とともに変化する学生たちの学習環境も踏まえながら、各学科の3名の教授にじっくりとお話を伺った。

五感全てで文字やデザインについて考える

視覚伝達デザイン学科
白井 敬尚 教授

タイポグラフィやブックデザインの領域でデザイナーとして活躍し、2012年より武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科の教授に着任した白井敬尚先生。現在は学生たちにタイポグラフィ、エディトリアル、ブックデザイン、グラフィックデザインなど幅広い領域で指導を行っている。
学科の特色について、白井先生は「色や形はもちろんですが、むしろ、それ以前の“何を伝えるのか”というデザインの根本的な問題について考えることがベースになっています」と語る。一人ひとりが取り上げるテーマや対象への観察や調査、体験、そして分析を行い、言語化し、図像を作る。そしてそれを編集してどのような形にして伝えていくのかという、インプットからアウトプットまでの流れを一貫して考えさせるのが基本骨格だそうだ。
「視覚伝達、と銘打っていますが、メディアが進展していく中で、もはや視覚だけに囚われていてはいけません。聴覚も嗅覚も味覚も触覚も含め、五感の全てを使ってデザインについて考えていくことの必要性を説いています」と白井先生。学生たちは1年次の始めに裸足で構内を目隠しして歩くなどの体験的授業を通じて、視覚以外の感覚、つまり聴覚だけでなく、周囲の匂いや素足の感触で場所を特定したりする感覚を味わい、身体感覚を体感する。「1年前期のタイプフェイスの授業でも、まずは自分の腕や手、さらには胴や足腰を使って描いた線の軌道から文字のサイズ、軸、濃度がどのように見えるのかという部分に焦点を置き、文字の中に内包する身体性を実体験します。そうすることで、最終的に身体性を削り、さらには残し、徐々に公的なものへと整えていくタイプフェイスの作り方を学ぶことができるんです」

書体=ツールという意識を定着させる

そうしてデザインすることの基本骨格を学び、1年生の後期からは学生全員に、モリサワの全書体が使える「MORISAWA PASSPORTアカデミック版」が与えられる。導入の経緯について、白井先生はこう話す。「最近は大学に入学した時点でMacBookを持っている学生も多いので、書体環境を整えることが重要だと思いました。モリサワさんはメジャーな書体はもちろん、プロのデザイナーでもなかなか使いこなすのが難しそうなマニアックな書体まで入っていて、学生に書体を選ぶことを意識づけてくれます。また、書体はお金をかけて購入して使うツールなのだという意識も、なるべく早く持ってもらいたいんです」
さらに白井先生は、学生一人ひとりのPCに豊富な書体が入ることによって、授業時間以外にも学生同士がコミュニケーションを取りながら互いに刺激し合い、より書体への学びを深められるようになると指摘する。「皆の持ち歩くPCの汚れ具合から、日常の道具として相当使い込んでいることが分かりますし、自分のPCの中で、色々なことにトライする学生が増えていると感じます」
今や学生たちにとって、特定のジャンルに留まらず、書籍やウェブ、ゲームなど様々な分野を縦断して制作を手掛けることは当たり前になっているそうで、卒業後の就職先もデザイン事務所や広告会社、ゲーム会社と多様化しているとのこと。最後に白井先生は「MORISAWA PASSPORTを手にしたいまの1年生が、2、3年後にどう成長しているか、楽しみにしていてください」と笑顔で語ってくれた。

言語への鋭敏な感性に応えるために

デザイン情報学科
森山 明子 教授

武蔵野美術大学デザイン情報学科にて、学科創設期から教授を務めている森山明子先生。かつては特許庁の意匠審査官や日経BP社の『日経デザイン』編集長としても活躍し、現在はプリントメデイア編集、デザイン文化論などを中心に学生たちを指導している。

情報化社会において多様化するメディアやデザインについて考察を深めるという学科指針の中で、とりわけ言語に重点を置いた演習を行う森山先生は、「視覚的なものやデザインに長けている人の中には、言語の能力も極めて高い学生が一定の割合でいるのです」と語る。そして、そうした学生が自身の考えを具現化する上で、書体は切り離すことのできないものとして捉えているという。

「現在ほとんど使われていない世界中の書体を調べて史実に基づきつつフィクションを混ぜた物語を描く、また約物開発を卒業研究としている学生もいます」と森山先生。

タイポグラフィにディープな関心と感性を持つ生徒は増えており、それが学科全員の個人PCへMORISAWA PASSPORTアカデミック版の教材採用という、書体環境を整える動きに繋がっていると指摘する。学科全員となると、さまざまな分野を担当される先生がたの意見を確認し進める必要があるが、今回の教材としての採用については、「編集を専門にしている私だけでなく、CGやアニメを専門としている先生からも、モリサワ書体を導入したいという声が上がって。それが大きな後押しになったことは間違いありません」

ツールを使いこなす土台を授ける

こうして学生全員に「MORISAWA PASSPORT アカデミック版」を導入することになった背景には、 時代的な流れもある。長年に渡って編集とデザインに携わり続けている森山先生は、「かつて編集ソ フトは非常に高額なものでしたが、InDesignの登場によって書体と編集ソフトが標準装備になりました。我が学科はその当時としてはかなり先進的な試みとしてInDesignとPC教室の環境を整えました。気がつけばPC教室で授業を実施することが当たり前になりました。

けれどいま、学生たちのほとんどが自分のPCで作業をし、学校でも自宅でもといった形で、場所や時間を選ばない制作環境を獲得しました。要するにPC教室から個人PCへ制作環境が転換しつつあります。ならば当然、学生たち一人ひとりのPCに最新のツールが入るようにすることが正しい投資になるのです。」と話す。

一方で、森山先生は恵まれた環境の中で学生たちが問題の本質を見失わないように指導する必要性も感じており、「例えば書籍のタイトルの書体選びで学生が迷っているとして、その原因は書体ではなくそもそもの言語表現にある場合も往々にしてありますから、私はそこをきちんと指摘して、書体選びだけに依存することがないよう注意を喚起しています」と補足する。どれだけ環境が整っていても、書体は一つのツールであると位置づけ、「ツールは技術ではないので、学生たちには言語的なものを突き詰める中で、ツールを使いこなすための土台を身に付けていってもらいたいんです」とのこと。

近年は大手通信会社や新聞社にデザイナーとして就職する卒業生も多いそうで、森山先生は最後に「学生たちには、デザインと情報と技術を繋ぐカタリストとして活躍してほしいと思います」と締めくくってくれた。

もう一度デザインの基礎に立ち返る

基礎デザイン学科
板東 孝明 教授

万物の構成原理を包括的に考察するシナジェティクスを専門に研究し、2002年から武蔵野美術大学基礎デザイン学科の教授を務める板東孝明先生。現在はデザイン論やヴィジュアルコミュニケー ションなどの領域でも学生たちの指導に当たっている。

かつて自らも在学していた学科について、「もともとは高度経済成長期に職能的な視点に偏っていたデザインを、もっと学際的な視点で捉えようということで設立されたのがこの学科でした」と板東先生は振り返る。当時は職能重視の他学科のカウンター的な立ち位置で、手よりも頭を動かす授業が多く、卒業後もデザイナーより教員を多数輩出していたという。しかし近年は再び状況が変わり、「社会が高度化して多くのものが専門化、細分化していく中で、もう一度デザインというものを根本から考えるために、目と手を使って研究しなさいという流れになりつつあります。そういう意味で、デザインの基礎、ベーシックな部分を学ぶ学科になってきているのかも知れません」

その中で、タイポグラフィも重要なスキルとして位置づけられ、学科内のほぼ全ての学生がタイポ グラフィの授業を受けるカリキュラムが組まれている。最近はさまざまなカテゴリーの書体の作成に取り組む積極的な学生も増えているそうで、板東先生も「多くのカテゴリー書体が収録されているMORISAWA PASSPORTが学びの場にあることが、学生の制作意欲をかきたてていることは間違いなく、書体の多様さに触れられることの意義は大きい」と手応えを語る。

解像度の高いデザインを目指して

教材として「MORISAWA PASSPORT アカデ ミック版」を導入した経緯について、「やはり学生たちの学習環境の変遷が大きくあり、PCが真の意味でパーソナルなものになって、アプリケーションを自由に使える時代になったということが一番のきっかけだと思います」と板東先生。また、学生一人ひとりが十分に手が届く価格設定であることも、大きな追い風になったという。「ひと昔前まで、書体というのは本当に高価で、苦労しながら作業をしていました。それが今では、個々のPCの中に多くの書体が装備され、自由に使えるという夢のような状況になっています。正直に言って、誰もが千手観音のような力を持てる時代だと思いますよ」

作業環境だけで見れば、プロとアマチュアの差がどんどんなくなっていく中で、板東先生は改めて基礎的なトレーニングの重要性を感じているという。「問題の言語化だったり、思考法だったり、それをどう定着させていくかということを常に考えています。だからこそ、ある講義ではあえて使える書体をこちらで指定して、一つの書体の中にある多様さや、型を知ってもらうことに重点を置いているんです。一つの書体に制限することで、この書体でどう組めば、どのように表現できるのかという非常に基礎的で盤石な力を養えると思うのです」

そうした丁寧な指導によって、完成度の高い制作が行えるようになった結果、それを評価され大手プロダクションや代理店、印刷会社に就職する卒業生も少なくないそうで、板東先生は今後についても「本当に解像度の高いデザインというのは、どこか空気が澄んでいて、掃き清められたような透明感があります。それを一人ひとりが出せるようになるまで、じっくりとスキルを磨いてもらいたいですね」 と学生への大きな期待を語ってくれた。