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どうして「10.5pt」?文字に関する単位のヒミツ

  

カテゴリ:文字・組版

こんにちは、文字組ツメ太郎です。

突然ですが、みなさんは「1ポンドステーキ」を食べたことはありますか?
筆者はその名前の重厚さから、恐れ多くて注文したことが無かったのですが、ふと「1ポンドって何グラムなんだ……?」と思い立って調べてみたところ、
約450gであることがわかりました。


……あれ、意外と食べられるな……?
響きから身構えすぎて5kgくらいをイメージしていたのですが、案外現実的な重さで拍子抜けしました。

この「ポンド」というのは、主にアメリカなどで使われている「ヤード・ポンド法」における重さの単位です。日本は「メートル法」が主流なので、ポンドといわれてもイメージがつきにくいですよね。

このように重さを示したり、物を数えたり……生活をするうえで、「単位」の認識を欠かすことはできません。もちろん版面設計をする時や文字を組む時も、単位は制作の根幹にかかわる大事な要素です。

ということで、今回のDTP Lab.のテーマは「単位」、特に「文字にまつわる単位」についてです。
1ポンドステーキにあやかって(?)、ワイルドに噛み砕いてご紹介します。

■ よく見る単位①「pt(ポイント)・ポ」

まずは、皆さんもよく目にするであろう「ポイント」から紹介します。
Wordで「10.5pt」なんて、親の顔より見た設定なのではないでしょうか。
元々は、欧文活字の物理的な大きさから来ています。

そんな馴染み深い「ポイント」ですが、意外な落とし穴が1つあります。
それは、「ポイント」にもいくつか種類があり、mm換算の結果がそれぞれ異なることです。

現在主流なのは「DTPポイント」と呼ばれるもので、1pt=0.3528mmです。
mmで換算してしまうと非常に中途半端なのですが、「1/72インチ」の大きさと言えばキリが良いでしょうか。(この「インチ」もヤード・ポンド法の単位ですね)

他にも、「JISポイント」というものがあります。
これはその名の通り、日本の産業規格「JIS」で定められている活字の寸法で、1pt=0.3514mmです。(※JIS Z 8305-1962「活字の基準寸法」より)


これら1ptの差はたったの0.0014mmと非常に微量ではありますが、このズレを抱えたまま制作を進めてしまうと意図した形に仕上がりません。
例えば文字サイズ10pt、一行30字で文字を組むと、0.42mmもズレが生じます。

現在の主流はDTPポイントですが、過去の資料を作成しなおす時などは、指示書の「pt」がどの種類のポイントであるか注意する必要があります。

ちなみにAdobe InDesignの場合、通常の「ポイント」はDTPポイントですが、単位設定で「アメリカ式ポイント」を選択することで、JISポイントでの作成が可能です。
(JISポイントはアメリカで主流だったポイントのサイズをベースにしたため、別名「アメリカン・ポイント」とも呼ばれています!)

また、DTP・JISポイント以外にもポイントの種類は存在しますので、気になる方は調べてみてください。

■ よく見る単位②「級(Q)」

メートル法が主流の日本において、最も使いやすい!と言っても過言ではない文字単位がこの「級」です。
1級=0.25mmというキリの良い数字に換算することができます。
「Q」と表記するようになった由来は所説ありますが、1級は1mmの1/4(Quarter)であることが関係しているのでは、と言われています。

行送りなどを指定する時は「級」ではなく「歯(H)」と呼ぶこともあります。級も歯も同じく、0.25mm換算です。

特に紙媒体での組版においては、紙のサイズがmm単位なので単位を揃えることができ、版面の設計がしやすくなります。
先ほどの「ポイント」は活字時代の単位でしたが、こちらは「写植」という印刷方法の時代に発明されました。

余談:写植(写真植字)とは?

モリサワ所蔵の文字盤

ここで一つ余談です。
「活字は分かるけど、写植って聞いたことがない……」という方も多いのではないでしょうか。

正式名称は「写真植字」で、活字とDTPの間の時代に活躍した印刷機械「写真植字機」を使います。その名前の通り、写真と同じ原理を使って文字を紙にうつし取っていきます。
文字の部分だけ透明な「文字盤」というガラス板をセットし、レンズを通して光を当て、感光紙(印画紙)に焼き付けることで、印刷の元となる「版」を作ります。

モリサワ写植機「MC-6」

この機械で文字を焼き付けるときに、感光紙を動かす歯車1つ分の距離が0.25mmだったことが「歯」の由来であると言われています。

実は当社モリサワ、もともとこの機械を作っていた会社なんです。写植機に興味がわいた方は、ぜひモリサワのホームページもご覧ください!

過去にモリサワ本社ビルをご紹介した記事でも、写植機と文字盤が登場しています。

■ よく見る単位③「号」

「号」は、日本の活字における文字の大きさです。
活字は文字が1つずつバラバラになった、正方形のハンコみたいなものですが、そのハンコの物理的な大きさがこの「号」のサイズで決まっていた、というわけですね。
初号が最も大きく、そこから一号・二号……とだんだん小さくなっていきます。

ポイントや級と違って、名前についている数字が「そのままサイズを表している」わけではなく、序列を表しているのが少しわかりづらいかもしれません。

この「号」の面白いところは、各数字が倍数の関係になっていることです。

()内はJIS規格制定前のサイズです

初号の半分の大きさが二号、二号の半分の大きさが五号、そのまた半分の大きさが七号……
システマチックに倍数の関係が成立していますね。
ちなみに、この「号」も時代によって大きさの定義が少し違います。

「ポイント」のところでも出てきたJIS規格(JIS Z 8305-1962「活字の基準寸法」)で、初めて規格として活字の大きさが定義されました。
それまで使われていた活字では、上の図でいう縦の倍数関係があまり考慮されていない大きさでしたが、JIS規格では「五号の1/8(1.3125pt)」をベースに倍数関係が成立するよう、サイズが定義されました。
初号/二号/五号/七号は同じサイズですが、それ以外の一号/三号/四号/六号/八号にあたるサイズは従来より少し小さくなっています。
(もっとも、JIS規格の文面では「号」という言葉は出てこず、それに相当するサイズが表記されているのみで「なるべく使用しないものとする」と記されています。)


ただし一部地域では、JIS規格制定後も以前の活字サイズが主流で使われていたようです。
なお、この「号」という単位自体は現在のDTPでは出番がほとんどありません。

■「10.5pt」の謎

さて、日本で主流な文字の単位がわかったところで、タイトルの謎に迫りましょう。
Wordの「10.5pt」設定、どうしてこんなに中途半端な数字がデフォルトなのでしょうか?


これは昔の公文書など、本文用として主に使われていたのが「五号活字」であり、それに最も近いポイントのサイズが10.5ptだったことに由来しているようです。
「号」から「ポイント」に移行したときの名残りで、今も10.5ptがデフォルト設定になっていたのですね。

■ InDesign、Illustratorでの単位設定

では、InDesignやIllustratorではどこで単位の設定をすればよいでしょうか?

Windowsの場合、[編集]>[環境設定]の単位設定から設定することができます。
Macの場合は[Adobe InDesign]、[Adobe Illustrator]>[環境設定]よりご確認ください。

いずれも、制作を始める前に設定を確認するのがおすすめです!

画面はいずれもCC2022(Windows)です

いかがでしたでしょうか?
文字にまつわる単位だけでも、たくさん種類があって奥深いですね~。

■ 実は……

モリサワでは、このような組版の基礎知識や書体ごとの特徴、デジタルフォントの扱い方をまとめて学べる講座「文字組版の教室」を通年開催しています。
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お楽しみに!

▼シリーズ記事の続編はこちらから!▼

日本語は「正方形」! 意外と知らない文字設計
2022年9月8日

《参考文献》

・小宮山博史(2020)『明朝体活字 その起源と形成』 グラフィック社
 http://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=42704

・公益社団法人日本印刷技術協会(2000)
 「ポイント・システムの由来(3)-活字の大きさと高さ(2)」
 https://www.jagat.or.jp/past_archives/story/2381.html(参照 2022-07-27)

 

(2022/08/18追記)参考文献の追加、および一部文言修正を行いました。

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