医療法人 やなぎクリニック 栁 忠宏 氏
「チラシが見やすくなった」という反響が
フォントを使いこなすことでより一層伝わりやすく
医療法人 やなぎクリニック
栁 忠宏 氏

栁 忠宏氏はやなぎクリニック(長崎県長崎市)の理事長であり、小児科の医師です。そんな栁氏が健診や予防接種などを行ううえでは、いかにわかりやすくかつ正確に伝えられるかという課題を感じていました。また学生や研修医を対象に講義をすることもあり、こうした場面でもやはり伝わりやすさについて漠然とした悩みを抱えていました。そんなときモリサワのフォントやセミナーと出会い、課題がどんどん解消していったとのこと。実際にはどのような変化があったのか、お話を伺いました。
研修医へのプレゼンが不発に終わり
プロから学ぶことを決意
生まれ育った長崎に戻り、父が開業したクリニックを継承したのが2017年です。それまでは東京の大学病院をはじめ、いくつかの病院の勤務医として働いていました。その間には看護学校で授業を行ったり、自治体から依頼されてセミナーを行うこともありました。
現在もさまざまな機会をいただいて授業やセミナーをすることがあるのですが、必要となってくるのがスライド資料です。話す内容をまとめたり、試験の結果やデータを示したりしたほうが、聴く人は理解しやすいですからね。ただ、スライドづくりについて専門家から指導してもらった経験はなく、「もっと見やすくなったらなぁ」となんとなく感じていました。
プレゼンへの課題を感じた一番最初のきっかけは、研修医にプレゼンをした時でした。私がある先生から教わってすごいと感じたことを、スライド資料を交えながら話したところ、その熱がうまく伝わらなかったのです。
しっかりと伝えたはずなのに、思うような反応が得られない、伝わるということの難しさを実感した経験でした。そんな経験もあり自身で試行錯誤はしていたものの、プロに教わろう!と決めたきっかけは、西川幹之佑さんという発達障害がある方が書いた1冊の本でした。タイトルは『死にたかった発達障がい児の僕が自己変革できた理由 ―麹町中学校で工藤勇一先生から学んだこと―』です。
私は小児科が専門なので、発達障害にはアンテナを張っていたのと、東京の麹町中学校で校長を務めていらっしゃった工藤先生にも関心があり目に留まったんです。
その本で特に参考になったのが、フォントに関することです。発達障害がある西川さんは、学校の教科書の文字がうまく読めなかったとのこと。フォントでそのような影響が出ることを初めて知り、早速、フォントメーカーであるモリサワさんのホームページを訪問。まずは無料版のフォントから使ってみることにしました。
色違いの文字を重ねることで
美しい袋文字ができる
無料フォントに登録するとさまざまなメールをいただくようになり、そのなかにはモリサワさん主催による無料オンラインセミナーの案内がありました。プレゼンやスライド資料についてきちんと学ぶ必要性を感じていましたので、これはいい機会だと思いましたね。
参加したのは、髙橋 惠一郎さんと佐久間 智之さんのセミナーです。髙橋さんは『ザ・プレゼン大学』というYouTubeチャンネルも開設されている、プレゼンのスペシャリスト。佐久間さんは自治体の広報経験者で、在職中に内閣総理大臣賞を受賞した広報の専門家です。
お二人は、さまざまなことを教えてくださいました。まず驚いたのは、「袋文字」がとても美しくつくれること。袋文字とは「文字の周りを別の色でふち取るデザイン」のことで、私はそれまでパワーポイントに搭載されている標準機能をそのまま使っていました。これだと、どうもすっきりしないんですよね。

ところが、同じ文字データを2色つくり、片方は読ませるための文字(黒色)、もう片方はふち取るための文字(白色)として重ね合わせると、とてもきれいに見せられるのです。教わらなければずっと知らないままだったでしょうし、プレゼンの内容はもちろんスライドの見やすさを意識することは、かなり重要なのだと再認識しました。
ウエイトやコンデンス書体によって
解決できることは意外に多い
お二人のセミナーでは、「ウエイト」や「コンデンス書体」についても学ぶことができました。ウエイトとは「文字の太さ」のことで、本文のように読ませたい文字はウエイトを細く、タイトルや見出しのように見せたい文字は太くする。こうすることで、すっきりと見せることができます。
「このタイトルが、一行に収まったら。」スライドやチラシをつくっているとき、そう感じることが結構あったのですが、コンデンス書体を使えばかなりの割合で解決できます。コンデンス書体とは視認性や可読性を備えながらも、通常のフォントより横幅が狭くデザインされているフォントのことで、いままで収まりきらなかったはずのスペースにすっきりまとめられることが多いんです。
フォントのバリエーションで意外に対応できることがあると知ることができ大きな収穫でした。
また、「なにかが違う」と漠然と感じていたことを言語化してしっかり認識できたことで、発信者としてのマインドにも気づけたように思います。情報の「受け手」ではなく「発信者」であるからには、見る人にどう感じてもらいたいのかを意図的に誘導しなければならないのです。
これは診療にも通じることで、自分が伝えたいことは前もって準備をしておかないと、患者さんに伝わらないのだと改めて思いました。
そのほか、パワーポイントに関する本は山ほどありますが、実際に講義を聴いてよかったと感じた方の本を知ることができよかったです。早速、髙橋さんの本を購入し、時間があるときに勉強しています。
早くも寄せられた
「見やすい」という反響が励みに
袋文字、コンデンス書体など、教わったことを実践するようになってからまだ数か月ではあるものの、早速、反響が出はじめています。
長崎県小児科医会に所属している私は、会のチラシ制作を任されていますが、学んだスキルを使ったチラシを見た人からは「わかりやすくなった」「きれいですね」「見やすいですね」といった声をもらっています。こうした反応があるととても励みになりますし、セミナーに参加させてもらって本当によかったと思います。
去年のチラシと見比べてみると、自分でもかなり違うなと感じます。よかれと思って空いたスペースに画像やイラストを入れることがあったのですが、いまではちょっと違うなと思えるようになりました。

行政からの情報は
削ることが大切
コロナ禍1年目は特に、行政からの要請が変わることが多かったので、診療や予防接種の体制などについて、臨機応変に発信する必要がありました。そのときから心がけていたのが、情報を絞り込むことです。
スマホを持たない人がいるかもしれないなど、「すべての人を救う役割」を担っている行政は、あらゆるケースを想定して広報を行います。そのためどうしても情報がびっしりになってしまいますが、そのままクリニックからのお知らせに載せると見づらくなります。
なかでも小さい子どもの予防接種スケジュールは細かいため、それをわかりやすく噛み砕き、正確かつ確実に伝えなければなりません。しかも病院からのお知らせは体調が悪いときに読むことがほとんどなので、関係のないことはできるだけ省き、端的に伝えられるよう気をつけていました。
必要そうな内容をいったんピックアップし、しばらく置く。そうすると、必要だと思っていた情報でも要らないと気づくことができます。そうした作業を2〜3回繰り返し、とにかく「情報を削る」ことを心がけていました。
先日も「新型コロナと季節性インフルエンザの同時流行」に関する診療フローについて、行政から資料が送られてきました。なかには、当クリニックにあまり関係のないことも含まれていましたので情報を精査。その代わりに二次元コードを載せるなど、内容をコンパクトにしてホームページに掲載しています。

今後も不安を解消するための
情報発信を心がけたい
小児科に来られるのは若いお母さん方が多く、ほとんどの人はインスタグラムを活用しています。やなぎクリニックとしてのアカウントはまだ開設できていないので、今後はインスタグラムを使った情報発信も行なっていきたいですね。
プロフィールページで一覧表示されたとき、統一感があって美しく見せる方法がきっとあるはず。モリサワさんにはぜひ、インスタグラムで上手に情報発信するためのセミナーを開催してもらえるとうれしいです。
また4月からは、子宮頸がんワクチンに関することなどが変更になります。いまもそう意識しているのですが、私たちとしては引き続き不安を解消するための情報発信を心がけたいと思います。
ワクチン1つとっても、打ちたい人と打ちたくない人がいます。どちらにもプラス面とマイナス面がありますので「打っておいたほうがいいです」といったように片方を押し付けるのではなく、両方のメリットとデメリットをしっかり伝えていきたいですね。そうすることによって患者さんやご家族の安心な暮らしに、少しでも役立てたらうれしいです。