株式会社富岡本店 次長 富岡宏一郎 氏
フォントを駆使して見やすくすれば
頭のなかも整理されていく
株式会社富岡本店
次長 富岡宏一郎 氏

山形市で楽器の販売やメンテナンス、ピアノ教室などを展開している富岡本店。経営者の1人である富岡宏一郎氏は、ピアノを軽トラックに載せて演奏する「軽トラピアノ」を企画するなど、地元の活性化を目指した活動もされています。豊かな発想力で次々に生まれるアイデアを、いかに社内外に伝えるか。その難しさに悩んでいたところモリサワのUDフォントを知り、伝わらないことのストレスが軽減したとのことです。
コロナ禍に元気を!
山形の観光地をめぐる軽トラピアノ
明治30年に創業した富岡本店は楽器の販売やメンテナンス、ピアノ教室などを展開している会社です。私は跡取りとして経営に携わりながら、常日頃から山形のためになにかできないかと考えています。周りを見ていても思うのですが、山形の人って地元愛が強いんですよね(笑)
地域振興へのあり方を模索していたところ、残念ながらコロナ禍となってしまいました。世の中に停滞ムードが漂うなか、少しでもこれを打破できないか、そしてピアノをもっと身近に感じてもらえないかと着目したのが、話題のストリートピアノです。
山形の繁華街にピアノを置いて演奏してもらうのも1つですが、もう少しエンターテインメント性を高められたらという想いがありました。そうしてたどりついたのが、軽トラックにピアノを載せて山形の名所を訪れ演奏を披露する「軽トラピアノ」です。自由に移動できる軽トラであれば、山形をPRしながらピアノにも親しんでもらえるはずと思い、早速、このアイデアを社内に伝えたところ、反応はイマイチでした。諦めきれず社内外へ少しずつ説明や説得と続け賛同者を獲得し、時間はかかりましたが、実現することができました。
おかげさまで、これまで山形市や天童市などを訪れていて、なかには再生回数が600万回を超えた動画もあります。
やさしいタッチのUDフォントは
「誰にでも読みやすく」がコンセプト
この企画を実現するには山形市や山形県などとタッグを組む必要があり、両自治体からは「どこでどのように軽トラピアノを演奏するのか、詳細を詰めてプレゼンしてほしい」という要請をいただきました。
私は会社の年度方針を発表するときや、社内ルールを改定するときなど、社員に自らの考えを伝えるときは口頭ではなく紙で伝えるようにしてきました。なので、資料づくりには慣れているのですが、「想うように相手に届いていない」という漠然とした課題感がありました。
そうしたなか、出会ったのがフォントメーカーのモリサワさんです。2022年の春に「やまがた創生プロジェクト研究」(※)に参加する機会を得ました。そのなかで、フォントメーカーのモリサワさんが講師でいらっしゃり、資料づくりについて学ぶことができました。
講義を受けてまず驚きだったのが、「見やすいフォントを選ぶ」という概念です。それまでは1枚の資料のなかでいろいろなフォントを使うなど「なんとなく」選んでいましたが、相手やシチュエーションに合わせて意図的に選ぶことで、より伝わりやすくなるのだと知りました。
特におすすめいただいたのが、誰にとっても見やすいよう開発された「ユニバーサルデザインフォント」(UDフォント)です。確かにUDフォントに変えることで、なぜか見やすくそして優しく感じました。また、UDフォントが見やすい理由や開発背景のお話などがとても興味深かったです。
UDフォントを使うことで
相手にも自分にもメリットが
UDフォントの存在を知ってから、新しく作る資料はUDフォントでつくるようになりました。それによって社内に配る伝達資料がより伝わりやすくなったと感じています。正直、フォントによってこんなに伝わり方が違うのかとびっくりです。
また、UDフォントは自分自身の目にもいいんですよね。私は朝から晩まで1日中パソコンに向かうことが多く、かなり目を酷使しているのですが、UDフォントを使うようになってからは疲れにくくなりました。スマホやアプリをはじめ便利なモノを一度使うと元に戻れなくなるのと同じように、UDフォントの良さにふれるともう前の状態には戻りたくないですね(笑)伝わりやすく、目にもいい。仕事の質が、断然上がったと感じます。
資料が見やすくなれば
頭のなかも整理されていく
同じUDフォントであっても、「ウエイト」にバリエーションがあるものもあります。ウエイトとは文字の太さのことで、標準的な太さの「レギュラー」より細いのが「ライト」、レギュラーより太いのが「ヘビー」といった具合です。ウエイトというものがあることも、講義を受けなければ知ることはなかったと思います。
また講義ではデザインのことだけではなく、「情報に優先順位をつける」ことについても学びました。いままでは全部伝えようと、どうしても文字量が多くなっていたので、「ここまで詳しく書いているのに、なんでわかってもらえないんだろう?」ともどかしく感じることがよくありました。
すべてを伝えるのではなく、資料を読む人の立場で本当に必要な情報は何かを明確にして、情報を絞り込んでいくことでフォントやウエイト選びがより効果を増していく重要な要素だと学びました。
情報を整理して、優先度が高い情報は太いウエイトのヘビーやボールドに、低いものは細いウエイトのレギュラーやライトにすると、紙面にメリハリがついてかなり見やすくなります。

講義では、資料をつくるうえでのこうした鉄則を意識しながら「どの情報が一番大事だろう?」と、自作資料をリメイクしていきました。いままでよりシンプルになり、自分でも見やすくなったと体感できたのは大きな収穫でした。
思い返してみれば、文字だらけの資料は受け取り手によっては見づらく、ストレスだったと気づけました。
またフォントの種類や大きさ、太さを選びながらビジュアルを整えていくと、見やすさがアップするだけでなく頭のなかが徐々に整理されていくんです。
伝えたいことが多い私は、自分でもなにが言いたいのかわからなくなっていたような気がしますが、考えがまとまるにつれて言葉にも説得力がでたと感じます。
うれしいことにそれまで新しいアイデアを静観していた社員も、いまでは「やってみましょう!」と言ってくれることが増えました。

経営者こそフォントの
大切さを学ぶべき
フォントや資料づくりに関して学んでみることは、私と同じ立場にいる経営者やマネジメント層の方々に特におすすめしたいです。経営者は常に会社をよくしたいと考えていて、いろいろなアイデアが浮かんでくると思いますが、それを実現するには周りにしっかり伝え、理解してもらわなくてはなりません。
それに、「こうしてほしい」とお願いしていたことが伝わっていないストレスって結構大きいですよね。私の場合はUDフォントや資料づくりのコツを覚えたことで、それがかなり解消されました。
もし以前の私のように、自分がつくる資料になんとなく違和感を覚えているようであればぜひリスキリングを検討してみてください。私が経験してよかったことは、ぜひ多くの人に体感してもらえたらと思っています。
字をうまく書くように
適切なフォントを選ぶ
私たちは小さい頃から「字を丁寧に書きなさい」と教わったものですが、最近は字を書くこと自体減ってきてしまいました。そのぶん、パソコンなどで文字を入力することが増えたわけですが、これからは「見やすいフォントを使いなさい」「相手にどう伝えたいかによってフォントを選ぶようにしなさい」と言われるのではないかと想像しています。
フォント選びは教育やビジネスに欠かせないスキルの1つになるような気がしています。
また、現在大学院で学び、企画した事業をぜひ地域への貢献事業として実現したいと邁進しています。先日、研究発表は終わりこれから活動スタートとなります。様々な方の理解を得ながら進める必要がありますので、今回モリサワさんの研修で学んだことを活かし「伝わる」資料で構想を実現できたらと思います。